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神経治療最前線 国際学会参加報告
22nd International Conference on Human Retrovirology: HTLV and Related Retroviruses
HTLV 2026
Philadelphia, Pennsylvania, USA.
2026年6月3日〜6月6日
聖マリアンナ医科大学 難病治療研究センター病因病態解析部門
中島 誠
HTLV 2026について
2026年6月、米国フィラデルフィアで開催された「HTLV 2026(22nd International Conference on Human Retrovirology: HTLV and Related Retroviruses)」に参加いたしました。本学会の母体であるIRVA(International Retrovirology Association:国際レトロウイルス学会)は、HTLV-1をはじめとするヒトレトロウイルス研究の発展と、それらに起因する疾患の制圧を目指し、世界各国の基礎研究者、臨床医、公衆衛生の専門家が集う国際組織です。IRVAが主宰する本国際会議は、HTLV-1研究における最も重要な学術集会の一つであり、ウイルス学、免疫学、疫学、血液内科学、神経内科学、公衆衛生学など、多領域にわたる最新の知見が共有される貴重な場となっています。
特に印象深かったのは、学会初日に設けられた患者参画のセッションです。HTLV-1関連疾患に罹患された患者さん自身が、成人T細胞白血病リンパ腫やHAM/TSPなどの希少疾患と診断されるまでの経緯、診断後の治療や生活上の困難、そして医療者・研究者に対する率直な期待を語られました。希少疾患では、診断の遅れや治療選択肢の限界、疾患認知度の低さが患者さんの負担をさらに大きくします。そのような現実を、研究者・臨床医が同じ会場で直接共有する機会が設けられていたことは、本学会を特徴づける重要な点であったと思います。HTLV-1研究は、単にウイルスや疾患を理解する学問にとどまらず、患者さんやHTLV-1キャリアの方々と連携し、診療体制、感染予防、社会的支援を含めた総合的な対策へとつなげていく必要があります。その意味で、本学会はHTLV-1領域における研究と社会実装の接点を再確認する場でもありました。
自身の発表について
今回、私はポスター発表にて参加いたしました。ポスターセッションは、ドレクセル大学キャンパス内にあるPapadakis Integrated Sciences Building(パパダキス総合科学ビル)で開催されました。同ビルは生物学科などの研究・教育拠点であり、建物内にはDNAの二重らせんを想起させる美しいらせん階段が4階分にわたって吹き抜けに設置されています(写真1)。生命科学を象徴するような空間で研究発表を行えたことは、国際学会ならではの特別な経験でした。

写真1. ドレクセル大学 Papadakis Integrated Sciences Building
私の発表題目は、「HTLV-1関連脊髄症患者の脳脊髄液細胞のシングルセルトランスクリプトーム解析による新規治療標的候補の探索」です(写真2)。HAM/TSPは、HTLV-1感染細胞を中心とした慢性炎症が脊髄病変を形成する神経免疫疾患ですが、その病態形成に関与する細胞間相互作用や治療標的候補については、なお不明な点が多く残されています。今回の研究では、HAM/TSP患者の脳脊髄液細胞を対象にシングルセルRNA-seq解析を行い、HTLV-1感染細胞の特徴や炎症性ネットワーク、治療介入の候補となり得る分子経路の同定を目指しました。
ポスター発表では、多くの先生方が事前に抄録を確認してくださっており、発表内容について詳細な質問やコメントをいただきました。本学会には、ウイルス学、免疫学、血液内科学、神経内科学、疫学など、多様な専門性を有する研究者が集まっているため、議論の視点も非常に多角的でした。例えば、HTLV-1感染細胞の病原性、脳脊髄液中の免疫細胞動態、炎症性サイトカインネットワーク、さらには臨床応用に向けた治療標的としての妥当性など、基礎から臨床までを横断する議論を行うことができました。
一方で、国際的な場で研究の意義を十分に伝え、相手の質問の背景を即座に理解して議論を深めるためには、英語での発信力をさらに高める必要があることも痛感しました。しかし同時に、多くの研究者がHAM/TSPの病態解明と治療法開発の進展を強く期待していることを実感しました。今回の発表を通じて、自身の研究の位置づけと国際的な関心を再認識するとともに、本研究成果を迅速かつ丁寧に論文化し、世界に向けて発信していく必要性を強く感じました。

写真2. 著者と先生方(左から、聖マリアンナ医科大学 脳神経内科主任教授 山野嘉久先生、聖マリアンナ医科大学 難病治療研究センター 准教授 佐藤知雄先生、著者、熊本大学 ヒトレトロウイルス学共同研究センター 講師 菅田謙治先生)
フィラデルフィアについて
開催地であるフィラデルフィアは、米国建国の歴史を色濃く残す都市であり、独立記念館やリバティベルなどの歴史的名所を有する一方で、大学や研究機関も多く集積する学術都市でもあります。今回の滞在時期は、サッカーW杯2026の開催を控えた時期でもあり、街中にはその盛り上がりを感じさせる雰囲気がありました(写真3)。6月のフィラデルフィアは気温としては日本と大きく変わらないものの、湿度は比較的低く、日差しの強さが印象的でした。学会会場周辺は大学キャンパスらしい落ち着いた雰囲気があり、研究発表の合間に街を歩くことで、米国東海岸の都市らしい歴史と活気の両方を感じることができました。
また、フィラデルフィアを訪れた際にぜひ味わいたい名物として、「フィリー・チーズステーキ」があります。薄切りの牛肉を炒め、とろけるチーズとともに細長いパンに挟んだ料理で、現地を代表するソウルフードとして広く親しまれています。実際に食べてみると非常に美味しく、学会参加中の印象的な思い出の一つとなりました(写真4)。フィラデルフィアを訪れる機会があれば、ぜひ一度試していただきたい一品です。

写真3. フィラデルフィア市庁舎

写真4. フィリー・チーズステーキ
終わりに
本学会への参加を通じて、HTLV-1研究の最新動向を学ぶだけでなく、世界各国で進められている研究の中で、自身の研究がどの位置にあり、今後どの方向へ発展させるべきかを改めて考える機会となりました。HTLV-1領域では、基礎研究、臨床研究、公衆衛生政策、患者支援が密接に関連しており、単一の専門分野だけでは解決できない課題が数多く存在します。そのため、国際学会で多様な専門家と直接議論し、互いの研究や問題意識を共有することは、今後の研究を進めるうえで極めて重要であると感じました。
また、本領域の国際学会には、今後自身の研究成果を国際誌に発表していく際に、査読者や共同研究者となり得る多くの先生方が参加されています。そのような研究者が現在どのような課題意識を持ち、どのような方向性で研究を進めているのかを直接知ることができた点も、大きな収穫でした。国際的な研究動向を踏まえたうえで、日本に蓄積された患者コホート、臨床情報、検体資源、長年の研究基盤を生かし、日本だからこそ可能なHTLV-1関連神経疾患研究をさらに発展させていく必要があります。
今回のHTLV 2026で得た知見と刺激を今後の研究活動に反映させ、HAM/TSPをはじめとするHTLV-1関連疾患の病態解明と治療法開発に少しでも貢献できるよう、引き続き精進してまいりたいと思います。
