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神経治療最前線 海外学会参加報告
International Congress of Parkinson’s Disease and Movement Disorders
MDS2025
Honolulu, Hawaii, USA
2025年10月5日〜9日
東邦大学医学部内科学講座神経内科学分野
蝦名 潤哉
1. はじめに
この度、2025年10月5〜9日にアメリカ・ハワイ州ホノルルで開催された International Congress of Parkinson’s Disease and Movement Disorders (MDS) に参加してまいりましたので、ご報告いたします。MDSはInternational Parkinson and Movement Disorder Society が主催する、パーキンソン病および類縁疾患に関する世界最大規模の年次学会です。最新の病態研究や治療の動向を学べるだけでなく、Grand Rounds や Video Challenge など実地臨床に直結するセッションも多く、研究から臨床まで幅広い分野を網羅した大変濃密な学会です。会場であるハワイコンベンションセンターはアラモアナセンター近くと立地も良く、日本からの参加者も多かった印象です。私自身も10数年ぶりのハワイであり、開催を楽しみにしておりました(写真1)。
私は2016年ベルリン大会で初めてMDSに参加して以来、パーキンソン病・運動障害領域に強く魅了され、コロナ禍をはさんだ後も2022年マドリード大会以降は毎年参加しております。欧米での開催が多く、普段訪れる機会の少ない地域へ行ける点も魅力の一つです(あくまで学会が主目的ですが……)。今回の学会で体験したこと、また私が国際学会に参加する際に考えていることを寄稿させていただきます。
2. MDS 2025でのトピックス
近年、この領域では診断・病態解明・治療の観点で目覚ましい発展が続いています。特に今回は、疾患修飾治療(Disease-modifying therapies: DMTs)をいかに前進させるかが大きな話題となっていました。今回の学会では近年施行されている治験に関する紹介がありましたが、現状ではDMTsの有効性を示す結果は十分得られておりません。そこで今後重要になってくるのが、治験に参加する患者をどのように選択するかが重要になるとの指摘がありました。遺伝子解析(GBA、LRRK2)、αシヌクレイン関連の液性バイオマーカー、画像バイオマーカーなどを活用し、将来的にはバイオマーカーを基盤とした層別化が必要であると強調されていました。
治療面ではデバイス治療、特にMRIガイド下収束超音波治療(MRgFUS)に関するセッションが豊富でした。本邦でも保険収載されていますが十分普及しているとは言い難く、今後の活用が期待されます。個人的にはMRgFUS後の再発症例のマネジメントに興味があります。
また、臨床に密接したテーマとして機能性神経障害や眼球運動に関する講演を拝聴しました。機能性神経障害は実臨床で判断に迷う例が多い一方、適切なマネジメントで改善が期待できる領域で、神経診察の奥深さを再認識しました。眼球運動も私の関心領域で、実際の眼振パターンから診断する難しさを改めて感じました。QRコードを用いた参加型で非常に勉強になりました。
日本では見られないGrand Roundsも印象的でした。エキスパートが実際の患者を診察し、病歴・診察所見から診断を導く貴重なセッションで、診察技法を学ぶ絶好の機会です。一方、遺伝疾患が多く、少し奇をてらったケースで症候から診断を推察するのが難しいと感じるケースであったり、日本で学んだ診察方法と異なる点が見受けられることもあり、「これで良いのか?」と思う場面もありますが、それもまた面白い点です。今回はVideo Challengeに参加しませんでしたが、次回は挑戦したいと思います。
3. 研究発表
私は現在、脳MRIや核医学を用いてパーキンソン病および類縁疾患の診断・鑑別、病態進展の解明に関する臨床研究を行っています。今回は私が取り組んでいる大唾液腺MIBG集積に関してレム睡眠行動異常症で検討した研究を発表しました(写真2)。特発性レム睡眠行動異常症はパーキンソン病をはじめとするαシヌクレイン病の前駆病態と考えられることから、病態進行解明やDMTsの確立に対して大変重要であると考えております。私と同じセッションには日本の先生方も多く参加され大変心強かったです。また、レム睡眠行動異常症を対象とした研究がいくつかあったことを踏まえると、現在の世界的なトレンドであり、αシヌクレイン病の病態解明に不可欠だと思いました。
今回の発表はスライドをモニターで提示する方式でしたが、音声をイヤホンで聴取するため聞き取りづらく、またスライド形式のため議論しにくい印象があり、形式改善の余地を感じました。一方、ポスターを持ち歩く必要がない点は、過去の学会にてロストバゲージを経験した身としては利点でもあると感じました。
今回の学会では、MRIの新規撮像手法や核医学を組み合わせた multimodal imaging による病型分類の試みも取り上げられており興味深く拝聴しました。しかし、神経メラニン画像・QSM・Free water imaging など、病態理解に有用とされる手法が実臨床に必ずしも落とし込めていないのが現状です。今後、これらのAdvanced MRI技術を臨床へ活用する道筋を模索したいと考えています。また、パーキンソン病の補助診断法であるMIBG心筋シンチグラフィーが欧米では広く普及しておらず、臨床の現場で施行されることがほとんどないと伺っております。運動障害疾患として“脳”に着目することは当然重要であり、シヌクレインPETといった疾患の本質を可視化する技術が近年目覚ましく進歩してきております。その一方で頭蓋外の神経変性への注目が低い印象を感じております。本邦が先頭に立ちエビデンスを蓄積してきたMIBG心筋シンチグラフィーの知見は、同検査を用いた研究を行っている者として、国際的に強みになると改めて感じました。
4. 最後に
今回のMDSはハワイ開催ということもあり、学会以外の時間も大変充実しました。ハワイの開放的でゆったりとした雰囲気を久しぶりに経験できて非常に楽しかったです(写真3)。ただ、元々物価が高いハワイにおいて、昨今の円安が私のお財布を直撃しましたが・・。
また、私にとって国際学会への参加は、臨床の傍ら研究を継続するモチベーションの一つになっています。臨床の場で研究的視点を持って患者さんを診ることは、診療に多くの気づきをもたらしてくれるとともに、研究のヒントになると考えています。
そして、国際学会に参加する度、自分の英語力の低さを痛感しますが、海外の研究者と積極的に議論できることは研究の幅を広げるうえで非常に重要なことだと考えております。若い先生方には、ぜひこの点を意識していただきたいと思います。来年のMDSは韓国・ソウルでの開催とのことで、気持ちを新たに研究・診療に取り組んでいきたいと考えております。

写真1 MDS会場入り口で記念撮影

写真2 ポスターセッションで発表前に撮影

写真3 学会の合間にワイキキビーチを散策
