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神経治療最前線 海外学会参加報告

NORD Summit 2016

NORD Rare Disease & Orphan Products, Breakthrough Summit 2016

国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター
トランスレーショナルメディカルセンター 臨床研究支援室
中村治雅

NORD Rare Disease & Orphan Products, Breakthrough Summit 2016
Hyatt Regency Crystal City,
Arlington, VA, USA
2016年10月17日〜18日

1. はじめに

 2016年10月17、18日の二日間、ワシントンDCでNORD Rare Disease & Orphan Products, Breakthrough Summit 2016が開催されました。会場は、昨年と同様にCrystal City駅近辺であり、今回は駅から徒歩10数分にあるHyatt Regency Crystal Cityでした。 開催中の二日間は、秋晴れの快晴であり上着を着て出歩くと少し汗ばむくらいの良い天気の中開催されました。

2. 会議について

 この会議は、米国にあるNORD(National Organization for Rare Disorders)が毎年開催しているオーファンドラッグの開発にかかる様々な課題やその解決策について話し合う会議です。

 NORDとは、米国でOrphan Drug Actが1983年に成立する際に、それまでは希少疾患の患者団体はそれぞれが個別活動を行ない、いくつかが協力しあっていたに過ぎなかったところを、希少疾患患者さんたちを取りまとめて活動を行う連合として成立したものです。今では、政府や議会へも大きな影響を持つ団体となっています。

 参加者は、患者、患者団体、製薬企業、研究者、FDAなどの政府関係者など、オーファンドラッグの開発に関わる全てのステイクホルダーを巻き込んで行われています。会場は、たくさんの丸テーブルに椅子を周りに配置する形で設営されていて、研究者や患者さん、企業の人たちが同じテーブルについて話を聞くこともあります(会場の写真参照)。そのため、同じテーブルの参加者とはその後話が弾むこともあり、私もNIHの研究者や、時には患者さんと日米の違いについて話すこともありました。

 なお、本会議は基本的には米国中心の会議であり、事前登録者を見る限りでは日本からの参加者は私含めて3名でした。他の二人は日本の難病、希少疾患患者のAdvocacy groupのメンバーでした。

3. 会議の内容について

 会議は、まずは全体のKeynote addressの後に、3つの平行して実施されるトラックに分かれており、参加者はそれぞれの関心のあるセッションへと向かいます。以下、いくつかの興味深いセッションを紹介します。

1) Patient Keynote address

 本会議の主役は何と言っても患者さんにあります。昨年もそうでしたが、今年もNORDのCEOの挨拶の後に、二人のBatten diseaseの娘さんを持つ母親が登壇しました。娘の診断時には、治療法もなく専門家もいない中で途方にくれましたが、その後ニュージーランドに娘の病気の研究者を見つけ出し、寄付金を募り基礎研究を進め、シーズを見つけ出し、現在は遂にclinical trialの実施までこぎつけたのです。ハリソン・フォード主演の映画「小さな命が呼ぶとき」のようなストーリーであり、会場が一体となって今後のtrialの成功を期待し、惜しみない拍手が起こりました。


2) Keynote address

Robert Califf, MD, Commissioner, FDA

 FDA長官による、オーファンドラッグ開発に関する一般的なtopicについてのセッションがありました。そこでは、FDAがオーファンドラッグの開発にこれまで以上に関心を持っていることを強調していました。なお、これまでにも一般的に議論されていることではありますが、FDAとして今後の課題としてあげているのは、適切なBiomarkerの開発、希少疾患においては信頼できるNatural historyを確立しておくことの重要性、一般的な疾患と異なり承認するまでに十分なエビデンスを構築できないオーファンドラッグにおけるPost Marketing Surveillance(PMS)がより重要になってきていること、Patient Registryを利用した医薬品開発促進、安全性対策への応用などが提示されました。

 なお、本会議の直前にPTC社の筋ジストロフィー治療薬Ataluren (Translarna™)が社会的な議論を巻き起こした末に承認された出来事がありました(詳細は、いくつかの科学誌でも紹介されており今回は省きます)。その件に関して、承認の判断への何らかの圧力の可能性などを質問される一幕がありました。


3) Exploring Frontiers —Telemedicine and Rare Diseases

David Flannery, MD, FACMG, FAAP,Medical Director, American College of Medical Genetics

 本会議では、必ずしもオーファンドラッグ開発だけではなく希少疾患患者さんの医療の改善なども議題として取り上げられます。その中の一つが、希少疾患におけるTelemedicineでした。希少疾患領域で専門家もいないなかでは、時間、距離の短縮、専門家の診断による診療の向上などを目指しての取り組みが紹介されました。演者は、1995年からGeorgia州で始まったTelehealth networkについて、実際の現場とつないで、どのように行うのかを最新装置を用いて紹介しました。実際に電話回線上で送られる、耳鏡による外耳所見や、小型カメラによる咽頭所見、検査結果なども含めての遠隔での診察、診断が行われました。今では、ある地域においては全ての小学校からも遠隔での診察が受けられる取り組みも紹介されました(School based telehealth clinicsと呼ぶようです)。さらには、Mobileによるtelemedicine の将来についても述べられました。その後の議論では、Rare diseaseの場合にはより専門的な診察などがあるがそれらに対応するのか、保険診療でどの程度カバーされているか、保険診療でtelemedicineを行う人物のライセンスの問題が議論されていました。


4) LUNCH AND LEARN BREAKOUT ROUNDTABLES

 本会議で特徴のある試みの一つには、ランチタイムの意見交換会があります。事前に事務局から提示される21のオーファンドラッグ等にまつわる議題の中から、自身の興味あるセッションに事前登録しておくと、ランチタイムの時間に席が指定されて、そこで見ず知らずの参加者と食事をとりながら意見交換を行います。


5) The Crucial Role of Data in Advancing Diagnosis and Clinical Drug Development

Michael A. Pacanowski, MPH, PharmD, Associate Director for Genomics and Targeted Therapy, CDER, FDA

David M. Spiro, MD, MPH, Co-Founder, Chief Medical Officer, ReelDx
Michael Binks MD, Vice President, Clinical Research, Rare Disease Research Unit, Pfizer Inc

 本セッションでは、希少疾患の新たな診断やオーファンドラッグの開発に対しての、患者レジストリの有用性について様々な立場からの紹介がありました。

 FDAからは、患者レジストリに於いては可能な限り長期経過データを収集することが重要であると説明されました。また、レジストリの有用性として自然暦と疾患モデルの確立、genotype-phenotypeの確立、アウトカムとしてのバイオマーカーの探索、オフラベル使用される薬剤の有効性の判断、さらには一般的な二重盲検並行群間比較試験の実施が困難な場合での薬剤の有効性を支持する情報の獲得などをあげていました。

 また、米国での様々なレジストリ関連の取り組みとして、NIH rare disease network、NORD standard registry project、 NORD-FDA Natural History Study Project、The Patient-Centered Outcomes Research Institute (PCORI)が紹介された。また、製薬企業からの発表者としては、現在ある有用な患者レジストリとして、例えばデュシェンヌ型筋ジストロフィーの世界的な患者レジストリと研究ネットワークであるCYNRGと TREAT-NMDの取り組みが紹介されました。


6) Trending Topics from FDA

上記のほかに、FDAから以下のような内容のセッションがあった。

Bio-similar Update
FDA’s Patients focused drug development (PFDD)
Future Perspective on Incentives for Orphan Drug/Device Development
The Importance of the Patient’s Input at Advisory Committees
Case Studies and Flexibility on Recent Approvals

4. 最後に

 本会議は、米国のオーファンドラッグに関連するすべてのステイクホルダーが一堂に会して情報共有、議論を行う重要な機会と考えられ、NORDのような団体が主催することにも大きな意義があると思われます。最終日の前夜、これらを参考にして日本でもオーファンドラッグ/デバイスに関連した議論を行う場ができればと、日本から参加した3名で、ワシントンの夜にピザとビールを楽しみながらの議論がつきませんでした。

写真1:当日のAGENDA

写真2:会場風景

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