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神経治療最前線 海外学会参加報告

ECTRIMS 2018

34th Congress of the European Committee for Treatment and Research in Multiple Sclerosis

高井良樹  東北大学病院神経内科

34th Congress of the European Committee for Treatment and Research in Multiple Sclerosis (ECTRIMS)
Berlin, Germany
10-12 October, 2018

第34回ECTRIMS参加記

1.はじめに

34回目となる欧州多発性硬化症学会(ECTRIMS;European Committee for Treatment and Research in Multiple Sclerosis)の学術集会が、2018年10月10日から3日間、ドイツのベルリンにて開催された(写真1)。

図1

写真1

大会会長はReinhard Hohlfeld先生 (Ludwig Maximilian University)が務められた。本学会は多発性硬化症に関わる学会としては最も大きく、近年はさらに拡大傾向にあり、今大会においても105カ国から9800人を超える参加者があった。セッションの数は84あり、150を超える口演、1000を超えるポスター発表とプログラムもかなり充実している。最先端の研究や、新薬の治験結果が本大会で初めて報告されることもある一方で、初学者向けのEducational sessionも多く、多発性硬化症を専門とする医師にとっては非常に重要な学会となっている。 2018年では、以下の項目がトピックスとして挙げられていた(治療、リスクマネジメント、画像検査、病態、バイオマーカー、遺伝、診断基準、進行性多発性硬化症、小児多発性硬化症、視神経脊髄炎関連疾患、MOG抗体関連疾患)。演題の膨大さから全てのトピックスを網羅することは困難であるため、筆者の目を通して興味深かった演題を中心に、今大会について紹介させて頂きたいと思う。

2.多発性硬化症における灰白質脱髄と髄膜炎症

近年、画像解析の進歩と共に多発性硬化症における皮質性脱髄の存在が明らかになってきており、神経障害への関与が示唆されているが、その病態解明はいまだ不十分である。髄膜に存在するリンパ濾胞様構造など、髄膜の炎症は長く議論されてきたトピックの一つであるが、本学会では灰白質脱髄に対する髄膜の炎症細胞浸潤に着目した演題がいくつか見られた。その中でRoberta Magliozziらのグループは、進行期の多発性硬化症症例における髄膜と髄液中に、炎症性サイトカインに加えて、CXCL13などの主にB細胞の遊走に関わるサイトカインが上昇していることを見出し報告していた。この所見は、髄腔と脳実質を循環する炎症細胞の存在が、どのように神経障害に関わるのかを考察する上で興味深いデータであると思われた。

3.NMOSDに対する新規治療薬の効果

今学会では、現在進行形で行われている治験薬の情報もいくつか紹介されていたが、その中で特に興味深かったのは、NMOSDに対するsatralizumab(ヒト化抗IL-6受容体リサイクリング抗体)の第3相国際共同治験(SAkuraSky)の結果である。NMOSDでは抗AQP4抗体が多くの症例で陽性となり、その抗体産生過程におけるIL-6の重要性が明らかになっているが、NMOSDには抗体陰性例もあることが知られている。本試験では、投与対象とするNMOSD症例を抗体陽性例に限定せずに行っており、その再発リスクを全体で62%減少させることを示していたが、興味深いことに抗体陽性例ではリスクの軽減が79%であるのに対し、陰性例では34%(実際のKaplan-Meier曲線では、明らかな有効性が確認しづらい)にとどまっていた。この結果は、抗体陽性例と陰性例でその背景病態が異なることを示唆するデータとも解釈が可能と思われた。つまり、疾患分類において抗AQP4抗体陽性例の独自性を再認識する必要があり、今後の治療選択において、自己抗体の確認がより重要となってくることを示唆する結果であると考えられた。

4.抗MOG抗体陽性疾患における治療効果及び病態

抗MOG抗体によって生じる病態や臨床型、治療反応性は近年の神経免疫疾患におけるトピックの一つであり、今大会でも多数の演題が報告されていた。Alvaro Cobo-Calvo らは、免疫抑制剤によるMOG抗体陽性例の再発率が、azathioprine, mycophenolate mofetil及びrituximabにおいて減少した一方で、methotrexate, mitoxantrone, cyclophosphamideや多発性硬化症に対する疾患修飾薬ではその治療効果が認められなかったことを報告していた。症例数が比較的少なく、今後多数例での検討が必要となるが、我々が直面している課題に対する一つの指標となると思われた。我々のグループも、抗MOG抗体における脱髄病理所見が、急性散在性脳脊髄炎で認められるPerivascular demyelinationにより特徴づけられることを本大会で報告したが、ほぼ同様の内容が他グループ(Theoni Maragkouら)からも報告されていた点は興味深かった。

5.おわりに

欧州多発性硬化症学会は、多発性硬化症を始めとする中枢性炎症性脱髄疾患の臨床及び研究において欠かせない学会であるが、普段はメールなどでのやり取りのみである共同研究者達と直接会って意見交換ができる場としても大変有用である。また、過去の偉人達の軌跡に触れる良い機会でもあり、特に今回は、個人的な興味の対象でもある血管周囲腔の発見に多大な貢献をされたRudolf Virchowの出身大学を訪れることができ(写真2:Rudolf Virchowの石碑、ベルリン大学にて)、感動の多い学会であった。2019年の本学会は、9月11日〜13日にスウェーデンのストックホルムで開催される予定になっており、今後も継続して参加していきたいと思う。

図2

写真2

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