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神経治療最前線 海外学会参加報告

Harvard MOGAD Symposium

Harvard MOGAD Symposium

Harvard MOGAD Symposium
2023年9月7日〜9日

東北大学神経内科   松本 勇貴

Harvard MOGAD Symposium

 2023年9月7日から9日までにHarvard大学で行われた抗MOG抗体関連疾患(Myelin oligodendrocyte Glycoprotein-antibody associated disease, MOGAD) symposiumに参加してきました。本Symposiumは2回目の開催で、今回はHarvard大学のMichael Levy先生主催の会合でした。世界中からMOGADの専門家や研究者が集まり、これまでの研究成果や今後の研究の方向性などについて議論しました。MOGADは2023年1月に診断基準が国際誌に発表されたばかりの比較的新しい疾患概念であり、世界中の研究者の本疾患に対する”熱”を感じることができました。私は新型コロナウイルス感染症が本邦で5類相当に分類され、初めての国際会議への参加でありましたが、参加者は事前に抗原検査での陰性確認が義務付けられており、米国と言え、しっかりすることはしっかりやっているんだなと僭越ながら感心しました。

 そんな中、私は先日Brain誌に報告しました、抗MOG抗体の血清と髄液の検査の意義について発表してきました。これまで血清抗体価が高い症例は、MOGADとして典型的な所見が多く、低い症例には多発性硬化症や脳腫瘍など偽陽性が含まれると報告されていました。しかしながら、血清抗体が低くても真陽性と考えられる症例も存在し、我々は血清と髄液抗体を組み合わせることによって、よりMOGADを適切に診断できることを報告しました。加えて、血清抗体価は視神経の障害に、髄液抗体価は大脳皮質性脳炎に関連し、血清抗体価が陰性でも皮質性脳炎の場合には、髄液を追加で調べる意義が高いことを発表しました。

 多くの方にexcellent talkとおっしゃって頂き、またたくさんの質問を頂戴でき、自分の研究の成果及び意義を改めて実感することができました。大きな学会ではなく研究会であるため、一つの部屋で継続的に全ての発表が行われ全ての講演者の発表を聞くことができたこともとても良かったです。また発表の合間には、30分程度のコーヒー休憩が挟まれており、休憩時間の間に様々な先生に質問をしたり、逆に頂戴したり、自分の研究の制限や今後の方向性、また共同研究の可能性についても議論できたことも大変有意義でした。大きな学会では発表後にまとまった時間をとっての、自分の研究についての議論を深めるということはなかなか難しく、大変得難い貴重な機会でした。

 本邦との研究会に参加して意外であったことは、MOGADや視神経脊髄炎の患者さんが実際にこの会合に参加されていたり、本会合の支援者に含まれていたりすることでした。昨今、学会では患者さんが参加されていたり発表されていたりすることは本邦でも珍しいものではなくなって来たかもしれません。しかしながら、このような研究会においてもそのような機会があること、また患者さん自身が寄付を募り、本会合に対して金銭的な支援をしていることは意外でありました。また患者さんのこの病による苦しみ(illness)、また我々研究者に何を望むのかを改めて、自分の患者さん以外で、生の声で聞けることは自分の研究する意義を再確認するとても良い機会でした。ついつい、研究をしていると疾患(disease)ばかりに目がいってしまいますが、患者さんがもっと良くなるために、自分ももっと頑張らないといけないと感じることができました。

 発表については、私と同じYoung investigatorとして、MOGADの治療後の画像病変の経時的変化についての系統的レビューの報告やMOGADの国際診断基準の妥当性検証等について報告がありました。その他、MOGADの最新知見のセッションとして、Mayo clinicのJohn Chen先生から、MOGADの視神経炎に対する大量免疫グロブリン療法や血漿交換療法について、ロンドンのYale Hacohen先生から小児のMOGADに対する治療についての講演がありました。その他複数の講演があり、大変学びの多い会合でした。

 また、治療については免疫寛容を誘導することによって本疾患を克服せんとする複数の研究発表があったことも印象的でした。MOGADとは似て非なる代表的な疾患に多発性硬化症(MS)がありますが、MSに対しては免疫寛容を誘導することによる治療はなかなか難しいものがあると思います。なぜならば、MSの原因となる特定の抗原がみつかっておらず、またその抗原は非常に多様であることが想定されているためです。しかしながら、アクアポリン4抗体が陽性となる視神経脊髄炎やMOGADにおいては、抗体が認識する抗原は明らかであります。UCLAのMichael Yeaman先生から、これまでのがんや膠原病に対する免疫治療、免疫寛容の誘導の研究についての系統的発表に加え、視神経脊髄炎ですでに試みられているChimeric antigen receptor gene-transduced T cell (Car-T) 療法の可能性についてご教示頂きました。また3人の研究者による、ナノ粒子やHLA-G、TIM-3/4 agonistを使用し免疫寛容を誘導し、実験的免疫性脳脊髄炎動物モデルでの重症化抑制効果を検討した発表がありました。免疫チェックポイント阻害薬ががんでの治療を変えたように、再発を繰り返すような自己免疫疾患においても免疫を調整するような治療が気軽に使える時代が来るのかもしれません。

 本研究会に参加できたことにより自分の研究のアイディアを深めることができ、また患者さんのためにもっと頑張らなくてはならないと発奮することができました。会の終わりには、論文でしかみたことがない人と一緒に食事ができたことやMichael Levy先生にお招き頂き野球チームのレッドソックスTMを観戦できたことも良い思い出です。末筆ながら、このような執筆の機会をくださった神経治療学会の先生方に御礼申し上げます。

写真1 発表する著者

写真1 発表する著者

写真2 会終了後の野球観戦

写真2 会終了後の野球観戦

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