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神経治療最前線 海外学会参加報告
International Congress of Parkinson’s Disease and Movement Disorders
International Congress of Parkinson’s Disease and Movement Disorders
Honolulu, Hawaii, USA
2025年10月5日〜9日
藤田医科大学医学部 脳神経内科学
水谷 泰彰
2025年10月5日から10月9日にかけて、米国ハワイ・ホノルルで開催された「International Congress of Parkinson’s Disease and Movement Disorders」に参加させていただきました。普段は学会に家族を連れて行くことはほとんどありませんが、開催がハワイということもあり、珍しく妻からの強いプレッシャーがあり、新婚旅行以来12年ぶりに家族同伴での海外渡航となりました。
会場のHawaii Convention Centerは、ホノルルの繁華街から徒歩約20分の場所に位置し、最上階の4階はメインホールの他、懇親会などの会場であったRooftop Gardenがあるなど、全体に開放的な空間でした。1階のExhibit HallではMDS Pavilion boothを取り巻く形で多数の企業が出展しており、大手製薬企業に加えてベンチャー的な企業の参加も目立ちました。個人的には、パーキンソン病(PD)患者さんの腸内細菌叢の改善を目指した多種の食物繊維やタンパク質等を含む栄養バー(レモン味とチョコ味の2種類)や、本態性振戦などの振戦に対する反動吸収の原理を応用した手装着型デバイス、またPDへのphoto neurostimulation(Phase 3が2026年4月に終了予定)など、従来の薬物治療とは異なるユニークな取り組みが興味深かったです。
発表に関しては、私はポスターセッションにて、髄液中の遊離ミトコンドリアDNAがPD患者における全身のエネルギー代謝の状態を反映し、新規のエネルギー関連バイオマーカーになる可能性を報告しました。ePoster形式で規定では2分の発表(+1分の質疑応答)と短く、必然的に提示する内容も時間的な制約に合わせてコンパクトにまとめる必要がありました。発表資料を会場に持ち込む必要がない点は便利でしたが、関心がある発表の情報をじっくりと確認しづらい側面もあり、紙や布の大きなポスターでの掲示形式と比べて一長一短あると個人的には感じました。
講演については、今年の3月に東京で開催されたAOPMCに引き続き、動画を多用した実践的な臨床内容が多くみられました。特に、Functional Movement Disordersのセッションでは、機能性神経障害で陽性となり得るdistractibility, entrainment, ‘wrack-a-mole’などの各種の徴候について、詳細な動画とともに解説が行われました。さらに、Movement Disorders Grand Roundsでは、実際の神経疾患の患者さんが登壇し、expertの先生方が問診や神経学的診察を経て診断を行い、コメンテーターからの意見を挟んだ後に、診断名が明かされるという形式が公開されていました。国内の学会でも、倫理的に難しい面もあると思いますが、教育的な意義を持つ新規の試みになると感じました。
PDの病態修飾療法に関するセッションでは、αシヌクレインを標的とした抗体療法(prasinezumab)やミスフォールディング阻害剤(minzasolmin)や凝集阻害剤(WTX-607)、GLP1/GIP agonists、チロシンキナーゼ阻害剤(risvodetinib)、およびNLRP3 inflammasome選択的阻害剤(VTX3232)など、最新の治験結果や有効性に関して多数の報告がありました。多くはPhase 2の段階まで、あるいはopen label試験でしたが、今後の進展が期待されます。同時に、PDでの臨床試験推進における新しい概念として、患者選択時の遺伝的背景や表現型(phenotype)や病期などの均質性(homogeneity)への十分な配慮に加え、“a clinical trial can be thought of a ‘machine’- building and breaking again and again”という考えのもと、共通のコントロール群を用いて複数の介入を連続して評価するplatform trialというデザインが紹介されました。治験の成功率が必ずしも高くない現実を踏まえ、段階的かつ効率的に試験を進める海外の実践的アプローチを垣間見ることができました。
橋渡し研究の領域では、血中exosomeから、約1%の脳由来exosomeを分離できるExoSortTMという技術が紹介されました。これによりαシヌクレイノパチーを末梢血でスクリーニングできる可能性が示され、さらにこの技術はTDP-43への応用も進んでいるとのことで、神経変性疾患の強力な診断ツールとなるのではないかと感じました。
基礎研究の領域では、スタンフォード大学のSergiu P. Pasca教授の講演が印象的でした。ヒトの神経モデルに関するiPS細胞技術の最新動向の紹介で、従来の2次元培養による神経細胞などへ分化誘導に加え、3次元培養により作製されるオルガノイド、さらに複数のオルガノイドを融合させたassembloid(アッセンブロイド)を用いた研究が報告されました。すでに脳領域間の神経回路、運動回路、感覚回路のモデル化が行われているとのことで、今後の神経疾患研究への応用が期待されています。
3日目の夕方は、Young Delegates Networking Eventでのガーデンパーティーからの流れで、京都大学、順天堂大学、国立精神・神経医療研究センター、Mayo Clinic、量子科学技術研究開発機構の先生方がステーキハウスで食事会をされるということで、厚かましくも飛び入りで輪の中に加えていただきました。年齢の比較的近い先生方でしたが、日々の業務にまつわる話題に関するくだけた会話からも、臨床や研究に前向きに取り組まれている姿勢を感じ、研究へのモチベーションの面でも大いに刺激を受けました。この場をお借りして同席させていただいたことに感謝申し上げます。
学会の合間には家族との観光も楽しみました。ワイキキビーチからほど近いダイヤモンドヘッドに登頂し、山頂からの絶景を満喫しました。また、ビショップ博物館では、古代から近代に至るハワイの歴史や、カメハメハ大王による統一の際にキャプテンクックによる西洋軍事技術の提供があったこと、さらに明治政府との交流など、ハワイの発展の裏側にある歴史的背景を深く理解することができました。子供達の希望で、ポスター発表当日の早朝に急遽シュノーケリングをしたりと、せっかくのハワイ滞在を家族とともに十分に堪能しました。
都合により、開催4日目の8日の昼までの参加となりましたが、今回の参加で、実践的な診療スキルの学びとともに、世界の最先端研究の潮流を感じることができました。さらに、研究者同士としてのつながりを深める機会にもなり、大変意義深い海外出張となりました。子供達にとっても、初めての海外は物価の違いを含めて貴重な経験となったようです。準備や費用面での大変さはありますが、このような海外での学会参加は今後もできる限り継続していきたいと思います。

(写真1) 筆者によるePoster発表

(写真2) Young Delegates Networking Eventでのガーデンパーティーにて. 左から筆者,University of California, San Diego留学中の澤村正典先生, 京都大学 脳神経内科の石本智之先生
