- HOME
- > 神経治療最前線 海外学会参加報告
- > TREAT-NMD Annual Curator Meeting
神経治療最前線 海外学会参加報告
TREAT-NMD Annual Curator Meeting
TREAT-NMD Annual Curator Meeting
TREAT-NMD Annual Curator Meeting
Amsterdam, Nederland
2023年12月4日〜5日
国立精神・神経医療研究センター脳神経内科 滝澤歩武
TREAT-NMD Annual Curator Meeting
2023年12月4日から2日間にわたりオランダのアムステルダムで開催されたTREAT-NMD(network of excellence for neuromuscular diseases)のキュレーター年次総会に参加しました。
本邦では遺伝性神経・筋疾患の治療研究開発を推進するため、TREAT-NMDとの協調のもと2009年に患者レジストリであるRemudy(Registry of Muscular DYstrophy)が設立され、疫学研究の実施、治験の患者リクルート、社会への情報発信等を行ってきました。この事務局が国立精神・神経医療研究センターにあり、私も臨床情報のキュレーターを担当させて頂いているため、この会議へ参加する機会を得ました。
TREAT-NMDは、2007年に欧州を中心に設立された国際的なネットワークで、神経・筋疾患の診断、新規治療法開発などを目指しています。神経・筋疾患は希少疾患が多いため、臨床試験の実施における患者リクルートなどの課題を克服すべく、各国や各地域で構築されてきた小規模なレジストリを、登録項目の統一化を通じ、より大規模な患者レジストリにすることが、TREAT-NMD設立当初から重要な課題と位置付けられてきました。その中でキュレーターは、患者レジストリのデータ収集、品質の管理など重要な役割を担っており、年次総会は各国のキュレーターが一堂に会して交流し、TREAT-NMDに意見を提供する貴重な機会となっています。
アムステルダムのスキポール空港に着いたのは現地時間で夕方5時過ぎでしたが、この地域は緯度が高いため(北緯52度)すでに真っ暗でした。会場のコートヤード・アムステルダム・エアポート・ホテルは、名前にエアポートとあるものの空港からタクシーで15分ほど離れており、また繁華街からも離れているため、都会の喧噪から解放され、参加者が議題に没頭できる環境でした。
会議では、はじめに1年間のTREAT-NMDの活動が紹介されました。まずバンクーバーで開催された国際会議に、35カ国から多くの関係者が参加し活発な議論が交わされ、大変充実したものとなったことが報告されました。更に、医療関係者のスキルアップを目指したマスタークラスに多くの関係者が参加し研修したこと、教育ツールとしてeラーニングが導入され質の高い教育機会にアクセスしやすくなったことが共有されました。今後、対象疾患の充実が予定されており、希少神経・筋疾患に関する教育活動が大きく進展することが期待されます。その後、脊髄性筋萎縮症、顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー、筋強直性ジストロフィー、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、肢帯型筋ジストロフィーのサブグループに分かれ、それぞれでレジストリ登録状況、次年度の予定などが議論され、討議内容が参加者全体に共有されました。各疾患レジストリのデータ品質を向上させる方法については重点的に議論され、ベースラインとする情報や、データ品質管理ツールの開発など、具体的な今後の計画が議論されました。また、Innovative Health Initiative(欧州連合と製薬企業の官民パートナーシップ)が資金提供し、患者報告アウトカム尺度(Patient-reported outcome measures:PROMs)を含む革新的なデータプラットフォームの構築などを通じて希少神経・筋疾患に対する治療法開発の加速を目指すプロジェクトに、TREAT-NMDが参加することがアナウンスされました。希少神経・筋疾患に対する資金総額2,100万ユーロの大規模な取り組みが始まることに、私も大きな希望を抱きました。初めて参加したキュレーター年次総会でしたが、普段は大半の時間を臨床業務に費やしている私にとって、全てが刺激的であり貴重な経験でした(写真1)。
会議終了後には、短時間でしたがアムステルダムの街を散策しました。アムステルダムは、歴史、建築、そして運河が融合した魅惑的な街として知られ、ユネスコの世界遺産に登録されています。スキポール空港に着いてからずっと会場のホテルに居たので、最終日に初めてアムステルダムに来たことを実感しました(写真2)。また、ゴッホ美術館、国立美術館に立ち寄り、偉大な芸術家たちが描く世界に束の間、浸ってきました。
この会議に参加して、希少疾患の治療研究開発には各国の関係者が連携して取り組む必要があると再認識しました。また、会議での議論が速やかに将来の計画に反映されるため、議論に参加した充実感を感じるとともに、希少神経・筋疾患への貢献を改めて意識しました。この貴重な経験を、今後の臨床やRemudyの活動に活かしたいと思います。末筆ながら、会議への参加機会をくださった国立精神・神経医療研究センター臨床研究支援部の中村治雅先生に御礼申し上げます。
写真1:様々な国から40人を超えるキュレーターが参加しました。
写真2:美しい運河沿いに立ち並ぶ17世紀の建物の数々に魅了されました。