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神経治療最前線 海外学会参加報告
International Annual Congress of the World Muscle Society
WMS
Vienna, Austria
2025年10月7日〜11日
奈良県立医科大学脳神経内科
江浦 信之
2025年10月7日から11日まで、オーストリア・ウィーンで第30回International Annual Congress of the World Muscle Society(WMS)が開催されました。筋疾患の国際学会としては最も規模の大きいもので、臨床を中心としつつも、基礎研究の最新知見にも触れられる貴重な場です。毎年9月〜10月に開催され、欧米を中心に世界各地で開催されます。私は2019年のコペンハーゲンでの学会が人生初の海外学会だったのですが、その経験があまりにも良くて、以後毎年WMSに参加しています。後述しますが、来年は日本で開催されることもあり、今回のWMSは自身のポスター発表とともに、初めてボランティアとして運営の一部に関わることができました。運営と発表の両方を経験できたことは、学術的にも個人的にも貴重な機会となりました。
会場となった Austria Center Vienna は、ウィーン中心街から地下鉄で15分ほどの場所に位置し、国連関連施設も隣接する大規模な国際会議場です(写真1)。初日はボランティアとして受付業務を担当し、来場した参加者と英語でコミュニケーションをとりながら手続きを行いました。参加者の数も多く、拙い英語で不安もありましたが、ボランティア同士で助け合いながら対応し、無事に夕方の開会式を迎えることができました。開会式では毎年、開催国の会長による趣向を凝らした企画があるのですが、今年は地元オーストリアの車椅子サッカーチームによるエキシビションマッチでした。選手たちが高速で方向転換しながらプレーし、会場は大いに盛り上がりました。想像以上に機敏な動きで、溢れたボールもコートの外に出すことなく拾い、ミドルシュートを打って得点する場面には驚きました。司会による実況も本格的で、参加者がウェーブをする場面もありました。この競技が難病の子どもたちにとって重要な活動・生きがいとなっていることが紹介され、以前外来で担当していた Duchenne 型筋ジストロフィーの患者さんが車椅子サッカーで各地へ遠征していたことを思い出しました。臨床や研究だけでは捉えきれない患者さんの日常、活動を肌で感じることができ、とても印象に残りました。
さて、WMSでは毎回、基幹となるテーマが設定されるのですが、今回の大会では“Neuromuscular diseases as multisystemic disorders”、“Multidisciplinary management of neuromuscular diseases”、“Advances in therapies and drug development”の三つでした。
最初のテーマ「多臓器疾患としての神経筋疾患」では、筋疾患が様々な臓器と密接に関係していることを示す研究が多数紹介されていました。筋原性疾患だけでなく、免疫性疾患や変性疾患でも全身的な代謝変化や炎症が生じることを示すデータが増えており、プロテオミクス解析や多臓器連関に関する新しい知見も豊富でした。研究手法の進歩とともに、疾患の全体像がより多角的に理解されつつあることが実感できました。二つ目のテーマ「多職種による診療と支援」では、医療・リハビリテーション・心理的ケア・社会的支援を統合した長期的なサポートの重要性が示されていました。遺伝子治療の登場により一部の神経・筋疾患の治療選択肢は広がっているものの、患者さんが日常向き合う問題の多くは残されたままです。小児期から成人期への移行医療、緩和ケア、生活支援の具体例など各国の取り組みが紹介され、文化や医療制度が異なっていても共通の課題を抱えていることがわかりました。日本の支援体制を考える上でも参考になる点が多くありました。三つ目のテーマ「治療開発と創薬」は特に注目度が高く、大きな会場にもかかわらずほとんどの座席が埋まっていました。遺伝子治療に用いるAAVベクターの改良、新しい細胞モデル、ナノ粒子を用いた薬剤送達システムなど、基礎技術の進展により治療の可能性が大きく広がっていることが発表されました。病態理解や臨床試験デザインに関する研究も多く、translational researchの観点からも大変勉強になるセッションでした。
最終日には、国立精神・神経医療研究センター神経研究所・疾病研究第一部の西野一三先生が Victor Dubowitz Lecture を行いました。この講演枠は、筋学分野の発展に顕著な功績を挙げた研究者に授与される名誉あるもので、これまで世界でも限られた専門家にしか与えられていません。西野先生は“Myology in Asia”をテーマに、アジア諸国での経験を踏まえ、地域における筋学発展の課題について講演されました。
私自身は“Treatment outcomes in idiopathic inflammatory myopathies based on pathology and autoantibody profiles: A single-center study of 127 cases”という演題でポスター発表をしました(写真2)。病理学的に診断した自己免疫性筋炎127例の臨床病理学的な特徴と、3年間の治療転帰を追ったもので、海外の研究者から質問やコメントをたくさんいただきました。保険診療上の問題から日本と海外とでは使用できる薬剤の違いもありますが、いずれの国の方々も診断だけではなく治療にも強い関心を寄せていることがわかり、大きな刺激となりました。
さて、学会の合間にはウィーン市内を散策しました。中心部のシュテファン大聖堂は高い尖塔がよく知られており、市内のさまざまな場所から目に入ります(写真3)。週末の夜には内部でクラシックコンサートが開かれており、偶然日程が合ったため鑑賞することができました。昨年のチェコでの WMS でも教会でのコンサートを聴きましたが、石造りの高い天井や彫像、絵画に囲まれた空間で聴く音楽は素晴らしいものでした。また、シェーンブルン宮殿やベルヴェデーレ宮殿といった宮廷文化を感じられる建築もウィーン市内に多く点在しており、徒歩や地下鉄、トラムを利用すれば無理なく巡ることができます。ウィーン国立歌劇場では、ちょうど都合のついた演目を鑑賞しました。演目の予備知識がなく難解な内容でしたが、音響や劇場の構造、客席の雰囲気を含め、文化的に大変良い経験ができました。さらに、シュニッツェルやザッハトルテ、オーストリアワイン、ビールなど、食事もしっかり堪能し、充実した一週間を過ごしました(写真4)。
最後に、2026年のWMSは9月29日から10月3日まで広島国際会議場で開催されます。ホスト国として日本で多くの研究者をお迎えする機会となり、国内外から多くの先生方に参加いただけることを願っております。また学術面以外でも、WMSではエクスカーションやGala Dinnerなど、世界の研究者とコミュニケーションをとる機会も多く用意されています。本稿をお読みの先生にも、是非ともご参加いただければ幸いです。

写真1 会場のAustria Center Vienna

写真2 筆者のポスター発表

写真3 シュテファン大聖堂

写真4 名物のシュニッツェル
