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神経治療最前線 海外学会参加報告

17th ASENT 2015

17th American Society for Experimental Neuro Therapeutics (ASENT) 報告

新薬開発、治験推進を目的とする医師、規制当局、製薬会社、患者団体(支援団体)などの総合的なフォーラム

国立精神・神経医療研究センター トランスレーショナルメディカルセンター 中村治雅
東邦大学医学部内科学講座神経内科学分野(大橋) 藤岡俊樹

The ASENT 17th ANNUAL MEETING
February 19 - 21, 2015
Georgetown University Hotel and Conference Center
Washington, DC

1.はじめに

 2015年2月19日から2月21日に、米国ワシントンDCのGeorgetown University Hotel and Conference Centerで開催された第17回米国実験的神経治療学会American Society for Experimental Neuro Therapeutics (ASENT)に、日本神経治療学会国際化・創薬委員会(委員長祖父江理事、名古屋大学)メンバーとして参加した。2010年以降は、継続的に国際化・創薬委員会メンバー(これまでに、アカデミア会員としては織茂委員、藤岡委員、藤原委員、PMDAから宇山先生および製薬企業から藤本委員)が参加しており、引き続き6回目となる参加および視察となった。これまではBethesdaでの開催が多かったが、今回は学会長の所属機関であるGeorgetown Universityのカンファレンスセンターで実施された。学会期間中、ワシントンは大雪に見舞われ交通機関も大きな影響を受けた。

写真1 :第17回 ASENT annual meeting

2.学会概要

 これまでの既報告にもあるように、ASENTの主な目的は神経領域の医薬品・医療機器等の新規治療法開発の推進であり、医師は多くが治験および新薬開発に関与する大学医学部所属または企業に所属し、一般の臨床医は少ない。特徴としては、アカデミアのみならず研究助成を行うNIHや規制当局FDAなどの政府関連機関、製薬会社(新興の小中規模の会社が多い)研究者、臨床開発支援企業(CROやSMO)、また患者支援団体などのステークホルダーが一堂に会し議論する学会である。この点は、臨床医中心であり、また研究開発から一般臨床までの幅広い神経治療学を対象とする日本神経治療学会とは異なる。

3.学会

 今回の学会プログラム概略は、以下のとおりである。

 Feb 20, 2015
  General session - Neuroinflammation
  Special Interest Topics Networking Luncheon
  Pipeline session
  Poster session
  Dinner symposium Current status of Future opportunities in Generis Drugs
 Feb 21, 2015
  Annual business meeting
  General session - What’s New in Orphan Drug Development?
  Lifestyle as Neurotherapeutics

写真2 :ASENT Business meeting


このうち、幾つか印象に残ったプログラムを紹介する。

1) Special Interest Topics Networking Luncheon
 昼食時間に、会場に臨床開発や臨床研究関連の幾つかのTopicを示したテーブルが設けられ、参加者は弁当を持って興味のあるTopicのテーブルにつき自由に意見交換を行うランチョンである。Topicは、例えば「若手研究者が神経治療学の領域へ踏み入る際の課題」、「小児領域での臨床試験実施の課題」、「なぜ臨床試験を始めるまでに時間がかかるのか」、「多施設共同試験における多施設IRBの課題」など、具体的に問題となっているトピックである。NIMH研究者、DukeのAROで勤務する薬剤師と、多施設共同試験における多施設IRB審査の問題点について話し合い、国内でも問題になっている施設倫理委員会乱立や中央IRB化推進については、米国でも同様であることを再認識することができた。

2) Pipeline session
 このセッションは、ASENTの名物セッションでもあると思われる。大学やベンチャーの研究者が、聴衆の前で自身の開発中シーズについて時に熱く語り、共同研究者や資金提供者を募ることにもつながっている。必ずしも新規化合物のみでなく、既存薬の適応追加も候補になっている。今回は18の発表があり、1件あたり持ち時間10分で開発品目を説明していた。たまたま隣に座った聴講者は、弁護士事務所の知財関係者でありこのセッションに興味があり毎年調査に来ていると語っていた。このようなセッションは、少なくとも国内の神経関連学会では開催されておらず、大変参考になった。今後は、本セッションからどの程度のシーズが開発されているのかも報告があれば良いのではないかと思われた。

3)General session - What's New in Orphan Drug Development?
 NIHの希少疾患担当部門NCATS、規制当局のFDA、開発企業、患者団体から、それぞれの立場で発表が行われた。米国においては、近年はFDAが承認する新薬のうちの41%がオーファンドラッグであり、オーファンドラッグ開発は非常に活発ではあるものの、疾患の希少性や病態解明も不十分な領域も多く、まだまだ解決すべき困難が存在する。その状況をどのように解決していくのか、それぞれの立場での提案が行われていた。特に、患者自身、患者支援団体が臨床開発プログラムへ積極的に関わることが昨今重要視されており、FDAもその点を強調していた。日本においても、難病対策の見直しから難病の治療法開発促進が重視される中、どのように問題解決していくのかを考える上で、同様なシンポジウムを行っていくことも必要ではないかと感じた。

4.視察を終えて

 ASENT総会には、これまでにも神経治療学会から定期的に参加しており、神経治療学会の今後のあり方を考えるうえでも参考となる会議である。しかしながら、前述のように、ASENTはその目的が神経科学領域の新たな医薬品・医療機器等の治療法開発促進を主目的にしており、参加者も臨床医主体ではなく、治験や医薬品開発等に関わる臨床医、製薬企業や開発関連企業(CROやSMOなど)、そして規制当局が中心である点は、神経治療学会とは異なる。神経治療学会の今後の方向性を考える際に、このような両学会の違いは踏まえつつ、ASENTが行うように神経内科領域で治療法開発に向けた議論の場を日本で提供する役割を担うこと、また治療法開発が世界規模で行われる状況において海外と協調する為にも継続してASENTと連携を持ち続けることは、本学会にとって重要と思われる。この数年間、神経治療学会学術総会では、開発に関わるプログラムが増加しており、学会以外のステークホルダーを巻き込む議論を行う場としてASENTの活動は非常に参考になると思われた。この点は、今後も国際化・創薬委員会などを中心に積極的に議論されるべきであろう。

 なお、今年度はこれまで実施されていたInternational meetingについては開催されず口演・シンポジウム、ポスターセッション、pipe lineセッションのみであり、参加者の多くは米国内に限られており、前年までのASENTの国際的な活動がやや低下している印象を受けた。また、Annual business meetingにおいても学会員数が伸び悩んでいることが報告されている。ASENT関係者との会話の中ではASENT自身も同様の危惧を持っており、来年の開催に向けてはInternational meetingの再開や、各国の規制当局も巻き込んだセッションを予定するとのことであった。米国、欧州、日本それぞれに、神経治療領域のアカデミアの位置付けや活動が異なるものの、このような会合に世界各国のKOL(Key Opinion Leader)が集まる機会は貴重であり来年以降の会合の運営に期待したい。

 大会期間中は、ワシントンにしては珍しく大雪に見舞われてしまい、学会期間中は隣接したホテルに缶詰状態であった。帰りの空港に向かうタクシーから凍結したポトマック川を眺めながら、今後の神経治療学会のあり方をASENTと対比しつつ、一路帰国の途についた。

写真3 :大寒波のワシントン中心部

写真4 :会場となったGeorgetown University Hotel and Conference Centerにて

 

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