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神経治療最前線 海外学会参加報告

IAPRD Congress 2024

IAPRD Congress 2024

Lisbon, Portugal
2024年5月19〜22日

池澤 淳
東京都立神経病院脳神経内科

1. はじめに

 5月19日から22日に開催されたInternational Association of Parkinson’s disease and Related Disorders (IAPRD) Congress 2024に参加しました.IAPRDは,50年以上前にWorld Federation of Neurologyにより設立された,パーキンソン病,パーキンソン症候群,不随意運動症に関する学会です.
 今回のIAPRD Congress 2024はポルトガルのリスボンで行われました.学会前日の夕方にリスボン・ウンベルト・デルガード国際空港に到着,空港を出ると空気がカラッとしていて日本との違いを感じました.長距離フライトの後で疲れていましたが,サン・ジョルジェ城へ.20時ごろでも初夏のヨーロッパは明るく,リスボンらしいオレンジ色の屋根の街並みを眺めることができました.

2. 発表について

 学会で私は先日Journal of Neurology誌にアクセプトされたDYT-SGCE (DYT11)以外のmyoclonus-dystoniaに対する淡蒼球脳深部刺激療法(GPi-DBS)について発表しました.DYT-SGCEはmyoclonus-dystoniaを呈する遺伝性ジストニアで,GPi-DBSがジストニアだけでなくミオクローヌスに対しても有効です.GPi-DBSは対症的療法であることから,SGCE遺伝子変異のないmyoclonus-dystoniaに対してGPi-DBSの効果を検討し有効性を示した研究になります.成人のジストニアでは遺伝子変異の検出率が高いとはいえず,そのことが治療法選択を難しくしています.同様の課題を感じる臨床医の先生から興味をもって聞いていただけました.
 また,当院からは川間健太郎先生がParkinsonism and Related Disorders誌に掲載されたばかりのe-Sports時の動作特異性ジストニアの症例を発表しました.ビデオゲームは,私が子供の頃,早くやめなさいと親から怒られる単なる娯楽でした.しかし,時代は変わり,ビデオゲームはe-Sportsとも呼ばれ,世界大会も開催され,競技としての側面を持つようになりました.高速で反復動作を行う点から,プロゲーマーは動作特異性ジストニアを起こしやすいとも考えられ,見過ごされている可能性があります.川間先生の積極性もあって,10人くらいと充実した議論をしていました.

3. 印象に残ったセッション

 学会では不随意運動のセッションを中心に聴講しました.IAPRDの会長でもあるAlberto Albanese先生が2024年に改訂予定のジストニアの定義と分類について講演していました.
 現在のジストニアの分類は2013年に発表されたものですが,使用する中で課題も感じます.例えば,ジストニアの病因を遺伝性,獲得性,特発性で分類し,家族歴に関する分類はありません.このため,上述の私の研究では,「DYT-SGCE以外のmyoclonus-dystonia」は特発性に分類されることになります.しかし,家族歴もあり検出できていないだけで何かしらの遺伝子の関与も考えられる症例を単に特発性と呼称することには違和感も覚え,結局研究をまとめる上ではあえて分類に関する単語は用いませんでした.2024年の新規分類では病因に関する分類(axiss II)とは別に,臨床分類(axis I)に家族歴に関する分類が追加され,そこにsporadic, familial, or unknownという分類枠が新設されます.このほかにも臨床分類(axis I)に症候に関する分類枠も新設されるなどの点が変更になります.多様なジストニアをより明白に分類できるようになった一方で,多軸にわたる複雑な分類がさらに複雑になったともいえます.
 また,IAPRDでもMovement Disorders Society (MDS)やMDSJと同様ビデオセッションがありました(ただし食事を取りながらではありませんでした).Hereditary spastic paraplegia type 6, SQSTM1/p62運動異常症,Marcus Gunn jaw-winking syndromeなどの貴重なビデオを拝見し勉強になりました.
 一番驚いたのは,亜急性に安静時優位にチック様の動き(と演者は表現していたがチックと呼んでいいかどうかは熱い議論がなされていた)が生じた50代男性が,抗IgLON5抗体関連疾患であったことでしょうか.
 ポスター会場では,日本と異なり不随意運動の演題も多く合わせて30程度あり,楽しく閲覧できました.

4. 最後に

 日本人同士でも,普段はなかなか話しかけられない先生方と交流させていただいたのも国際学会ならではの経験でした.リスボンの美しい街並みと、我々日本人の嗜好にも合う料理を楽しみつつ,学問的な学びと交流を楽しめた充実した4日間でした.

写真1:サン・ジョルジェ城から見るリスボンの街

写真1:サン・ジョルジェ城から見るリスボンの街

写真2:ポスターの前で川間先生と

写真2:ポスターの前で川間先生と

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