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神経治療最前線 海外学会参加報告
International Stroke Conference 2018
International Stroke Conference 2018
岡崎周平
大阪大学大学院医学系研究科 神経内科学
International Stroke Conference 2018
Los Angeles, California, USA
2018年1月24日〜26日
1.はじめに
これまで日本神経治療学会の海外学会参加報告では、脳卒中関連の国際学会に関する報告がほとんどなかったようですので、はじめに脳卒中領域における国際学会の現状と本学会の特徴についてご紹介します。現在、脳卒中関連の国際学会では、欧州脳卒中協会(ESO)が主催するEuropean Stroke Organisation Conference、世界脳卒中機構(WSO)が主催するWorld Stroke Congress(WSC)、そして本学会の3つが代表的な脳卒中領域における国際学会です(図1)。
図1:
学会会場の風景。国土の広い米国ではCT撮影が可能な緊急車両を用いて現地で脳卒中の迅速診断を行い、血栓溶解療法の適応を決定している。
International Stroke Conference(ISC)は、米国心臓協会(AHA)および米国脳卒中協会(ASA)が主催する世界最大規模の脳卒中関連の国際学会であり、約70の国から4500名以上の医療関係者、研究者が集まり、脳卒中に関する最新の基礎研究、臨床、看護、リハビリテーション、ヘルスケアシステムなど様々な領域について熱い議論が行われます。
近年のISCでは神経治療領域においていくつかのエポックメイキングな発表があり、2013年ホノルルのISCでは、3つの血栓回収療法に関するランダム化比較試験(RCT)の全てで血栓回収療法の有効性を示せず、ホノルル・ショックと呼ばれ、この年はISCの会場中でため息が聞こえました。しかし、その後ステントリトリーバーなどの新たな血栓回収デバイスの開発が盛んになり、2015年ナシュビルのISCでは、3つのRCT全てで血管内治療の有効性が示され、急性期脳梗塞における血管内治療のエビデンスが確立したことから、この年のISCはナシュビル・ホープと呼ばれています。この時のメイン会場では、多くの参加者がスタンディングオベーションを行い、会場はかつてないほどの熱気に包まれました。これらの結果を受けて2016年以降の潮流としては、血管内治療の適応拡大と再開通率の改善が大きなテーマのひとつになっています。
2.ISC2018のハイライト
ISC2018では3日間の日程で、基礎、臨床、トランスレーショナルリサーチなど21セッションがあり、約1500演題の発表がありました。これらのうち、メイン会場で発表された神経治療関連の研究で私が特に興味を持った発表について紹介し、最後に私の研究についても少し紹介させていただきたいと思います。
・DEFUSE 3試験
DEFUSE 3は、スタンフォード大学のGregory Albersらを主任研究者とする脳梗塞急性期における血管内治療の適応時間の延長を目指した第3相ランダム化比較試験で、中大脳動脈(M1)もしくは内頚動脈閉塞を有する脳梗塞患者を対象に脳梗塞発症後6−16時間の血管内治療の有効性について検証しました。適格基準には、CT潅流画像/MRI潅流画像を利用したRAPID systemと呼ばれる高速自動読影システムが用いられ、ターゲット・ミスマッチ・プロファイル(いわゆるペナンブラ領域)を算出して血管内治療が有効と思われる症例を抽出しています(図2)。主要アウトカムは90日後のmodified Rankin Scale(mRS)で、182名の患者が登録された時点で、血管内治療群の高い有効性から試験は早期中止となりました。結果は、90日後のmRSが2点以下だった症例は、血管内治療群で45%、薬物治療群で26%(P<0.001)と血管内治療群の圧倒的な勝利で終わり、number need to treatはわずか2人という驚異的な結果でした。先に発表されたRAPID systemを用いた同様の試験であるDAWN 試験とこの試験の結果を受けて、今後血管内治療の適応は更に拡大していくでしょう。またターゲット・ミスマッチ・プロファイルの算出についても、RAPID systemなどの自動読影システムが今後主流になっていくことが予想されます。(N Engl J Med. 2018 Jan 24. doi: 10.1056/NEJMoa1713973.)
図2:
RAPID systemを用いたターゲット・ミスマッチ・プロファイルの算出
(国立循環器病研究センター脳血管内科 井上学先生より画像資料提供)
・もやもや病感受性遺伝子RNF213多型とアテローム血栓性脳梗塞の関連
私自身は1月25日のCerebral Large Artery Diseaseというセッションで、日本人における、もやもや病感受性遺伝子とアテローム血栓性脳梗塞の関連についての発表をさせていただきました(図3)。RNF213はもやもや病の感受性遺伝子として発見され、もやもや病患者の約80%が本遺伝子多型を有していることが知られていますが、脳梗塞全体におけるRNF213の関連については明らかではありません。国立循環器病研究センター・バイオバンクに登録された脳梗塞患者383名と健常成人1011名についてRNF213遺伝子多型の保有率を比較したところ、脳梗塞患者では有意にこの遺伝子多型の保有率が高く(調整オッズ比3.9倍)、とくにアテローム血栓性脳梗塞においては非常にRNF213遺伝子多型保有率が高いことが明らかになりました(調整オッズ比11.5倍)。男女間でも保有率は異なり、女性では特に脳梗塞の発症に本遺伝子多型が強く関連しているようです。本研究の結果は、これまで別々の疾患として考えられていたもやもや病とアテローム血栓性脳梗塞が一連のスペクトラムにある可能性を示唆しているのではないかと我々は考えています。
図3:
著者の発表
3.おわりに
ISCは脳卒中領域における最先端の潮流を肌で感じることができる貴重な国際学会です。
来年のISC2019は常夏の楽園、ハワイ・ホノルルでの開催になります。脳卒中を専門にされていない神経内科の先生方も、ぜひ一度この学会に参加されることをお勧めします。
*本稿の作成にあたり、国立循環器病研究センター脳血管内科医長の井上学先生には貴重な画像データをご提供いただきました。この場を借りて深く感謝申し上げます。