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神経治療最前線 海外学会参加報告

International DLB Conference 2015

International Dementia with Lewy Bodies Conference 2015

織茂智之・公立学校共済組合関東中央病院
Fort Lauderdale/USA
2015年12月1日〜4日

はじめに

2015年12月1日から4日間,米国FloridaのFort LauderdaleのMarriott Harbor Beach Resort & SpaでInternational Dementia with Lewy Bodies (DLB) Conferenceが開催された(Figures 1,2).サイエンティフィックセッションでは口演55,ポスターセッションでは117の発表があった.初日には,これまでのDLB研究において多大の功績のあった研究者として,本邦からは小阪憲司先生が表彰された.会議では,さまざまな研究が報告されたが,特にprodromal DLBについての議論に注目が集まっていた.3日目には午後7時から3時間,10例程度のClinical-Neuroimaging-Pathologyカンファランスが行われた.2日目の午後,3日目の午後3時から約2時間,DLBの診断基準改訂にむけてのワーキンググループの討論が行われた.

本邦の研究者による口演発表

本邦からは,横浜市立大学名誉教授の小阪憲司氏,名古屋大学睡眠医学藤城弘樹氏,筆者が口演を行った.
1) DLBとレビー小体病の歴史的観点(小阪憲司)
DLBは1976年Kosakaにより初めての症例が報告された. 1980年にはレビー小体が関与する「レビー小体病」の疾患概念を,1984 年には「びまん性レビー小体病(DLDB)」の概念を提唱し,1990 年にはAlzheimer(AD)病変の合併の有無によって通常型と純粋型に分類するとともに,両型で臨床像が異なることを指摘した.DLBDの提唱以後,欧米からも同様の報告が続き,1995 年に開催された第1回国際ワークショップにおいては「レビー小体型認知症:DLB」という疾患名称と診断基準が提唱された.1998 年の第2回国際ワークショップでは,Kosakaが提唱するレビー小体病の4 分類が認識された.
 日本ではDLBの単施設研究のみならず,全国的な組織構築や疾患の認識の普及も図られている.横浜で開催された第4回国際DLBワークショップの翌年2007年にはレビー小体型認知症研究会を,2008 年には家族を支える会(現:サポートネットワーク)を発足させ,毎年研究会を開催している.この研究会は,DLBの研究成果を創出する組織基盤となっている.また,患者とその家族,ケアスタッフを中心にDLBについての認識は高まっており,家族を支える会による社会活動にも成果が現れている.

2) Quantitative correlation between cardiac MIBG uptake and remaining axons of the cardiac sympathetic nerve in Lewy body disease(織茂智之)
筆者は,まずレビー小体病のMIBG心筋シンチグラフィとH/M比の標準化について,次にMIBG集積低下の背景病理を,最後に剖検で確定診断されたレビー小体病の生前のMIBG集積と心臓交感神経の変性の程度との関連について解説した.
 剖検で確定診断されたレビー小体病23例(6施設,PD8例,DLB15例)の生前のMIBG集積(標準化後)について検討した.H/M比は早期像では20/22(91%),後期像では22/23(96%)で低下しており,改めてMIBG心筋シンチグラフィのレビー小体病診断の有用性が明らかになった.さらにH/M比と心臓交感神経の変性の程度を比較検討した.その結果,H/M比と抗tyrosine hydroxylase (交感神経のマーカー)抗体陽性の残存神経線維の面積,抗neurofilament (軸索のマーカー)抗体陽性の残存神経の面積はともに有意に正の相関を示した.以上より,MIBG集積低下の程度は心臓交感神経の変性・脱落の強さを反映することが示された.

3) アジアにおけるDLB研究(藤城弘樹)
日本では,2006年横浜で第4回国際DLBワークショップが開催され,翌2007年に設立されたDLB研究会を通じて全国多施設研究が実施された.その結果,抑肝散やドネぺジルの薬物治療効果,MIBG心筋シンチグラフィの診断有用性が確認された.本邦ではDLB診療において,2012年にはMIBG心筋シンチグラフィの診断目的使用が,2014年にドパミントランスポーターシンチグラフィの診断目的使用,ドネペジル(アリセプトR)による薬物治療が認可された.
 レム期睡眠行動異常症(RBD)は最も疾患特異性のあるDLB発症の予測因子であり,世界各地で縦断コホート研究が実施されている.しかし,RBDが先行しないDLB症例も存在するため,RBDのフォローアップのみではDLBの全体像を捕らえる事は難しい.これを踏まえ,prodromal DLBの検出が期待される症候あるいは画像所見として,嗅覚障害,自律神経障害,無症候性RBD(subclinical RBD),一次視覚野の糖代謝低下/脳血流低下が注目されている.日本を含めアジアの複数のグループがこれらの症候とDLBの関連を報告している.

ワーキンググループによる討論

DLBの診断基準改訂にむけてのワーキンググループは,臨床診断,病理学的診断,マネージメントの部に分かれていた.臨床的診断の部では,まずRBDをcore featureにあげるかどうかの議論が,そしてMIBG心筋シンチグラフィとMRIでの側頭葉内側面の萎縮が軽度であることをsuggestive featureに格上げするかどうかの議論が中心に行われた.一方で抗精神病薬の過敏性については,suggestive featureからは格下げになりそうである.MIBG心筋シンチグラフィについては,おそらく次回の改訂では診断に寄与できるsuggestive featureになるものと期待される.

病理・遺伝子・基礎研究ワーキンググループでは,病理診断基準の変更について議論が行われた.主な変更点として,AD病理変化の評価方法としてNIA-AA基準によるABC方法を採用することや,嗅球を評価部位として追加し,病理亜型として,脳幹優位型,移行(辺縁)型,新皮質型に加え,扁桃体優位型(Amygdala predominant type)が追加されることとなった.また,Parkinson症状の有無の記載とともに中脳黒質の神経細胞脱落についても明記することが加えられた.

薬物治療

1) コリンエステラーゼ阻害薬(choline esterase inhibitor: ChEI)
DLBに対するChEIの有効性を検討したランダム化比較試験(RCT)は,これまで4件(リバスチグミン1件,ドネペジル3件)あるが,ドネペジルのRCT は,3件中2件が日本で実施された.このうちMoriらの報告では,ドネペジルの投与により,NPI改善に有意差はみられなかったものの,認知機能(MMSE)の改善が認められた.これらの結果を受けて,2014年9月にドネペジル(アリセプトR)が世界で初めて,DLB患者への保健適応が認められた.

2) DLBの新規治療薬
今後期待されているDLBの新薬候補としては,対症療法薬としては5-HT6受容体拮抗薬であるSYN120(Dual 5HT6/5HT2A拮抗薬,認知症を伴うPD(PD with dementia: PDD)に対する安全性,忍容性,有効性を検討するフェーズ2a試験が進行中)とRVT-101(フェーズ2b試験が計画中)があり,これはドネペジルとの併用で効果が上がるとされている.また,抗精神病作用を有する薬剤としては,5HT2A受容体遮断作用をもつpimavanserin(PDの精神症状を適応としてFDA申請中),nelotanserin(DLB, PDDの精神症状,DLBの睡眠障害に効果)がある.一方,疾患修飾薬としては,aducanumabをはじめとするアミロイド免疫療法薬や,α-シヌクレインを分解するnilotinibなどが期待されており,現在治験が行われている.

マリオット ハーバービーチ & スパ

カンファランスの雰囲気

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