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神経治療最前線 海外学会参加報告

30th IEC2013

The 30th International Epilepsy Congress (IEC) 報告

東北大学大学院てんかん学分野 神 一敬

The 30th International Epilepsy Congress
Montreal / Canada
2013年6月23日〜27日

30th International Epilepsy Congressが6月23日から27日までカナダのモントリオールで開催された。多数の教育講演・シンポジウムに加え、一般演題も口演・ポスターを合わせると1150に及ぶ、てんかん関連の国際学会としてはAmerican epilepsy society (AES) annual meetingに次ぐ大規模なものである。AES annual meetingと比べると、お祭り的な要素が強い学会と聞いていたが、今回のopening ceremonyではWADA testで有名なJuhn Wada先生がLifetime Achievement Awardを、また、日本てんかん学会理事長の兼子直先生(弘前大学大学院精神医学講座前教授)がAmbassador for Epilepsy Awardsを受賞され、とりわけ日本人にとってはおめでたい会であった。

モントリオールはケベック州に位置するカナダではトロントに次ぐ第二の都市で、フランス文化の薫り高い異国的な雰囲気、美食の町、石造りの住宅街、街中にある数多くの教会、パリのメトロに似たゴムタイヤの地下鉄、石畳のヨーロッパ調の旧市街の街並みなどが特徴的で「北米のパリ」とも称される。有名なモントリオール神経学研究所(MNI)があることで知られ、neurologist, epileptologistにとって一度は拝みに行きたい聖地である。

以下に本学会での講演・発表のうち、治療に関するtopicsを中心に報告させていただく。

薬物療法

我が国では欧米から遅れること約10年、Gabapentin, Topiramate, Lamotrigine, Levetiracetamの4剤が新規抗てんかん薬として認可され一つの区切りを迎えた感があるが、国際的には次の段階にシフトしている。すなわち以下の3剤の有用性が多数報告されていた。PERAMPANEL, LACOSAMIDEは我が国でも現在、治験(臨床第III相試験)が進行中である。

1. PERAMPANEL

AMPA型グルタミン酸受容体拮抗剤で、シナプス後AMPA受容体のグルタミン酸による活性化を阻害する。これは既存の抗てんかん薬とは異なる新規の作用機序であり、部分てんかんのみならず全般てんかんに対する効果も期待されている抗てんかん薬である。

2. LACOSAMIDE

GABA感受性イオンチャンネル機能調節およびCRMP-2(Collapsin Response Mediator Protein 2)調節作用を有する。これも既存の抗てんかん薬とは異なる新規の作用機序であり、部分てんかんのみならず全般てんかんに対する効果が期待されている抗てんかん薬である。

3. ESLICARBAZEPINE

Oxcarbazepineの活性代謝産物であり、作用機序は基本的にOxcarbazepineと同じだが、血中濃度の高いpeakを示さず1日1回投与ですむのが利点で、理論的には高い忍容性が期待されている。我が国ではOxcarbazepine自体が認可されていない。


PERAMPANEL, LACOSAMIDEに関しては従来の抗てんかん薬とは異なる新規の作用機序を有しているため、今後、どのようなてんかんにより有効であるのかが明らかとなり、他の抗てんかん薬との使い分けをどうするかが分かるようになることが期待されている。

非薬物療法:External trigeminal nerve stimulation (eTNS)

体表からの三叉神経に対する電気刺激でてんかんの発作抑制効果が得られるという画期的な報告である。始めにうつ病に対する効果が明らかとなり、その後、てんかんに対する治療効果が報告された。根治療法ではなく、既に広く臨床的に普及している迷走神経刺激と同様、あくまでも姑息的な治療法である。40%の患者で発作が半分に減ったという結果をどう考えるかであるが、既存の薬物療法が効かず、切除術の適応もない、難治性てんかんの患者にとって、侵襲性の少ない治療法が選択肢として加わることは朗報である。

Sudden Unexpected Death in Epilepsy (SUDEP)

最後に治療と直接関連する話題ではないが、SUDEP (Sudden Unexpected Death in Epilepsy) に関するセッションを紹介する。てんかん患者では一般健常人に比して明らかに高頻度に原因不明の突然死がみられることが知られており、SUDEPと呼ばれる。てんかん患者の死因の10%を上回るとされている。SUDEPの診断基準は、(1) てんかんの病歴(5年以内の間に1回以上のてんかん発作);(2) 突然発生の死亡;(3) 予期せぬ死亡(すなわち生死に関わる疾患がない状態からの死亡);(4) 剖検を含めたあらゆる精査でも原因不明の死亡の4項目で、全てを満たした場合にdefinite SUDEP、(4) 以外の3項目を満たした場合にprobable SUDEPと診断される。SUDEPの危険因子として、高い発作頻度、強直間代発作、抗てんかん薬の多剤併用、頻回の薬剤変更、怠薬や急な服薬中断、長い罹病期間、若年成人、男性、Dravet症候群、QT延長症候群などが報告されているが、その機序はいまだに解明されておらず、従ってそれを防ぐための方法も分かっていない。今回のセッションでは、SUDEP preventionをテーマに活発な議論が行われていた。欧米では近年、注目が高まり、アメリカてんかん学会でも毎年のように多くの発表がなされ、symposiumやspecial interest groupにおける活発な議論も行われているが、我が国ではあまり議論されていないのが現状である。一方、SUDEPに関する説明をどの時期に、どのように行うかは非常にデリケートな問題であり、欧米においても結論が出ていない。我が国においても、SUDEPが広く認知され、その病態・機序解明に向けた議論が活発に行われることが期待される。

写真1 :「北米のパリ」モントリオール

写真2 :左からJuhn Wada先生、著者、東北大学神経内科の加藤医師

写真3 :学会メイン会場

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