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神経治療最前線 海外学会参加報告
International Stroke Conference(ISC)2025
ISC2025
Los Angeles, USA
2025年2月5日〜7日
聖マリアンナ医科大学
脳神経内科/脳血管内治療科
辰野 健太郎
2025年2月、米国カリフォルニア州ロサンゼルスにて開催された International Stroke Conference 2025(ISC 2025) に参加いたしました。本学会は世界最大規模の脳卒中専門学術集会であり、毎年、最新の臨床研究や治療技術、予防戦略が発表される重要な国際会議です。
今回でISCへの参加は3回目、ロサンゼルスでの開催は2回目となりました。会場のロサンゼルス・コンベンションセンターはダウンタウンに位置し、都市的な雰囲気に包まれています。隣接するレイカーズの本拠地「クリプト・ドットコム・アリーナ」では、ちょうど八村塁選手の試合が行われ、日本人参加者の多くが観戦に訪れていたようです。残念ながら大谷翔平選手の所属するドジャースの試合はオフシーズンで観られませんでしたが、空き時間にスタジアムツアーに参加し、非常にエキサイティングな体験となりました。
さて、肝心の学会ですが、こちらも非常に刺激的な内容でした。日本の学会と大きく異なる点として、メインセッションが単一会場で行われ、参加者全員が同じセッションを聴講する形式であることが挙げられます。そこでは、最新のRCTの結果などが発表されることが多く、臨場感と一体感のある学術体験が得られます。
中でも私が注目したのは、脳主幹動脈閉塞に対する発症4.5〜24時間以内の静注アルテプラーゼ投与で転帰改善効果が示された報告や、機械的血栓回収療法(MT)後に行う動注アルテプラーゼおよびテネクテプラーゼ投与の有効性を示した研究でした。MT全盛の時代において、血栓溶解療法が再評価されつつあることを実感しました。
MeVOに対するMTの限界
今回のISCで最も注目されたトピックの一つが、Medium Vessel Occlusion(MeVO)に対する機械的血栓回収療法(MT)の有効性を検証した3つのランダム化比較試験(RCT)です。DISTAL TrialとESCAPE-MeVOは、会期中に New England Journal of Medicine に同時掲載され、大きな反響を呼びました。いずれもMT群は対照群に対して有意な転帰改善を示すことができず、むしろ出血性合併症の増加が問題視されました。また、DISCOUNT Trialは安全性の懸念から途中中止となっています。
いわゆる「MeVOショック」ともいえる結果に、会場内外で議論が絶えませんでした。ただし、dominant M2が対象に含まれていなかった点や、ACA・PCAなども含む研究デザインであったことから、これらの結果をそのまま受け入れることには慎重な見方もありました。 これら3試験の結果を通じて、これまでグレーゾーンとされてきたMeVOに対する血管内治療の臨床的有効性と安全性が徐々に明らかになりつつあること、そして症例選定の重要性があらためて認識されました。
自身の発表について
今回、私はポスター発表の機会をいただき、神奈川県で実施された前向き登録研究 K-NET Registry のリアルワールドデータを用いた、血栓回収療法後の転帰予測スコアの構築について報告しました。
本研究では以下の手順で予測モデルを構築しました:
- 対象:発症前mRS 0-2、ICAまたはM1/M2閉塞に対してEVTを受けた症例(n=2,381)
- データを80%のトレーニングセットと20%のテストセットにランダム分割し、K-fold法で解析
- 選択因子:年齢、NIHSS、糖尿病の有無、ASPECTS、再開通の程度、発症から穿刺までの時間、パス回数、IV-tPAの有無
- 各因子のオッズ比に基づいてスコアを割り当て、スコアと転帰の関係をROC解析で評価(AUC 0.768)
本スコアの特長は、日本人のリアルワールドデータに基づいている点と、治療前後の多因子を統合して予測可能である点です。実臨床において、予後の迅速な把握や家族説明、治療方針の策定に寄与する実用的なツールとなることが期待されます。
学会参加を終えて
本学会を通じて、脳卒中治療における国際的な潮流を肌で感じるとともに、これまでの常識を覆すような多くの新知見に触れることができました。とりわけ、MeVO治療戦略の再考や血栓溶解療法の再評価といった臨床に直結する議論は非常に刺激的でした。
今後、日本における治療戦略の構築や研究の方向性を考える上で、今回得た知見を還元し、より良い医療の実現に繋げていきたいと強く感じています。また、国際学会での発表という貴重な経験を糧に、今後も臨床・研究の両面で研鑽を積んでまいります。
なお、来年のISCは2026年2月4日〜6日にニューオーリンズで開催予定です。若手脳卒中医の皆さま、ぜひ現地でその熱気と臨場感を体感してみてはいかがでしょうか。
左から聖マリアンナ医科大学病院脳血管内治療科 高石智先生,同 筆者,
同 伊藤英道先生, 横浜脊髄脳卒中センター 山本良央先生