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神経治療最前線 海外学会参加報告
2025 Gordon Research Conference, CAG Triplet Repeat Disorders
2025GRC
Lucca, Italy
2025年5月25日〜30日
名古屋大学大学院医学系研究科神経内科学
蛭薙 智紀
1. はじめに
2025年5月、イタリアで開催されたゴードン研究会議 (Gordon Research Conference; GRC), CAG Triplet Repeat Disordersに参加しました。GRCは科学の様々な分野の、最先端の研究成果を発表し、議論することを目的とした国際会議です。私は2年前に当教室の勝野雅央先生の勧めでボストンのGRCに初めて参加し、今回が2回目の参加でした。私が参加したGRCは前回、今回ともにCAGトリプレットリピート病に特化したものであり、世界各国のポリグルタミン病の研究者が集まります。出席者はやはり欧米の研究者が多いですが、中国、香港、韓国などアジアからの参加者もいます。今回、当教室からは前田憲太郎先生と私が参加し、日本からは他に新潟大学より加藤泰介先生、北原匠先生が参加されました。ポリグルタミン病の中で、私たちは主に球脊髄性筋萎縮症 (spinal and bulbar muscular atrophy; SBMA)の研究を行っており、加藤先生、北原先生は歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症 (dentato-ruburo-pallido-luysian atrophy; DRPLA)に関する研究をされています。以下に会の概要をご報告いたします。
2. ゴードン研究会議 (CAG Triplet Repeat Disorders) の特色
GRCは通常の国際学会とは異なり、特定の分野に特化した研究者が集まり、1週間程度同じ場所に滞在することで、交流・議論をすることが主な目的となっています。発表は口演とポスター発表に分かれますが、いずれも未発表の内容が非常に多く、この会で知った未発表の内容を外部に漏らすことは禁じられています。今回の会では、約200人のポリグルタミン病の研究者が参加しました。ご存知の方も多いかと思いますが、ポリグルタミン病の一つのハンチントン病 (Huntington’s disease; HD) は患者数が多いこともあり、欧米では非常に大きな研究分野となります。今回も参加者の7割程度はHDの研究者であり、残りの約3割が脊髄小脳変性症 (主にSCA1やSCA3) 、DRPLA、SBMAなどの研究者でした。
3. 会場に着くまで
飛行機の便の関係でフィレンツェ空港に着くのが会前日の深夜だったため、空港近くのホテルを予約していました。空港からは徒歩圏内のはずですが、道が複雑で地図アプリを見てもよく分からず、近くに正規のタクシーも見当たりませんでした。前田先生の提案で近くの駅までトラムで行くこととし、終電間際のトラムに乗ってなんとかホテル着くことができました。フィレンツェ空港に行く際には、できれば日中に着く便で行くことをお勧めします。
翌日の会場までのバスが夕方発でしたので、トラムでフィレンツェの街の中心部まで行きました。中心部の観光スポットは集中しており、徒歩で十分見て回れます。また少し離れますが、晴天に恵まれたおかげで、ミケランジェロ広場という丘からフィレンツェ市街を一望することができました (写真1)。前田先生の事前の調査に感謝いたします。
4. 会議の内容
会場はイタリアトスカーナ地方にあるLuccaのリゾートホテルであり、現地まではフィレンツェ空港からGRCが手配したバスで行くことができました。会費には滞在中の宿泊費、食費、参加費が全て含まれており、ホテルのランクを考慮するとかなり割安に設定されていると思います。食事は3食ともブッフェ形式でしたが、テラス席の眺めは素晴らしく、写真を撮っている人も多かったです (写真2)。
発表は口演(premier talks)とポスターセッションに分かれます。口演は最新の内容が中心で、どの発表でも質疑が活発に行われます(ただし、ここでの質疑に入っていくのはややハードルが高いです)。上述の通り未発表の研究内容をここで記載することはできませんが、近年HDを中心に、神経細胞、特にmedium spiny striatal neurons (MSNs) において、ゲノムのCAGリピート数が生涯を通じて伸びていく(somatic CAG expansion)ことが注目されており、今回もそれに関する発表が多くありました。しかし、somatic expansionが病態にどの程度関わっているのか、それを抑えることで神経変性を改善させることができるのかなど、まだ議論がある領域と思います。治療に関しては、ポリグルタミン病の原因遺伝子のmRNAを標的としたアンチセンス核酸の実用化がまだ不透明な部分もあり、異常タンパク自体を標的とする低分子など、核酸以外の治療法開発の研究も多くありました。
ポスターセッションは自由討論形式でしたが、狭い分野の研究者が集まっているため、活発な議論が行われます。私も自分の発表内容に関し、SBMAの研究者はもちろん、他の分野の方からも多くの貴重な意見を聞くことができました。加藤先生、北原先生からも、DRPLAの最新の研究を教えて頂き、とても勉強になりました。
発表の場以外でも、食事の席は自由となっており、気になった発表内容があればその際に気軽に発表者に聞くことができるのも、この会の魅力の一つです。また私は参加しませんでしたが、会場近くのバルガという街はイタリアで最も美しい街の一つとして有名であり、滞在中に会の参加者と一緒に街を回るツアーに参加することもできます。
5. SBMAミーティング
前述の通り、SBMA研究者は会全体から見るとマイノリティですが、人数が少ない分すぐに顔見知りになれるという利点があります。最近のGRCでは、SBMA研究者が集まり、座談会のようなミーティングが開かれることが慣例となっているようでした。今回もThomas Jefferson UniversityのDiane Merry先生が主催で会が開かれ、20人以上が集まりました。ラボを主催するPIの先生が多くいる中で、自分の研究内容の話をするのは緊張しましたが、publishされていないような話も多く聞くことができ、とても有意義でした。
6. おわりに
今回のGRCを通じて、SBMAなどの比較的稀な疾患であっても、世界中には多くの研究者がいることをあらためて感じました。このような貴重な機会を頂いた、医局の先生方に深謝いたします。今後も是非参加できればと考えておりますので、会場でお会いした際には、何卒よろしくお願いいたします。
写真1 ミケランジェロ広場から撮影したフィレンツェの街並み
写真2 朝食会場にて
右から北原匠先生、前田憲太郎先生、加藤泰介先生、筆者 蛭薙