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神経治療最前線 海外学会参加報告

Kennedy’s Disease Association Conference 2026

KDA Conference 2026

Orlando, Florida, USA
2026年2月27日〜3月2日

名古屋大学医学部附属病院脳神経内科
山田晋一郎

―患者主体の国際連携とSBMA研究の現在―

 本学会への参加は、オーランド空港で国立病院機構新潟病院の中島孝先生とお会いしたところから始まりました。恥ずかしながら私は初めて北米大陸に降り立ち、しかも単身での参加という緊張の中にありましたが、中島先生とご一緒できたことは大きな安心につながりました。中島先生は到着早々バゲージロストの危機に見舞われ、私はホテル初日の予約が入っていないという思いがけないトラブルに直面するなど、互いに小さくないハプニングを抱えながらのスタートとなりました。しかし、そのような状況だからこそ自然と打ち解けることができ、到着日の夜にはディナーをご一緒する機会を得ました(写真1)

 中島先生はロボットスーツHAL®の研究開発における第一人者であり、神経筋疾患に対して適応を取得するまでの道のりや、その背景にある患者さんへの強い思いについて直接伺うことができました。技術的な革新の裏側にある、患者さんの生活を少しでも良くしたいという純粋で力強い動機に触れ、大きな刺激を受けました。滞在中、計3回にわたり夕食をご一緒させていただいたことも含め、この出会いそのものが今回の旅の大きな財産となりました。この場を借りて御礼申し上げます。

写真1:中島孝先生と会場であるRosen Plaza Hotelのレストランにて

写真1:中島孝先生と会場であるRosen Plaza Hotelのレストランにて

 本学会はKennedy’s Disease Association(KDA)が主催する国際会議であり、世界中から球脊髄性筋萎縮症(SBMA)の研究者と患者が集う、他に類を見ない特徴を有しております。開会は、2026年1月3日に98歳で逝去されたDr. William Kennedyへの追悼セレモニーから始まりました。日本においては川原汎先生が世界に先駆けてSBMAの兄弟例を報告されておりますが、本疾患を国際的に広く知らしめたKennedy先生の存在は極めて大きいものです。その功績を世界中の研究者・患者とともに振り返り、静かに思いを馳せる時間は、この領域に関わる者として深く胸に刻まれるものでした。

 本会の最大の特徴は、患者会が主体となって企画・運営に深く関わっている点にあります。会場には世界各国から患者が参加し、自身の生活における工夫や、使用しているモビリティ、さらには世界中を旅する経験や料理コンテストでの活躍など、多彩なテーマで自ら発表を行っていました(写真2)。その姿は実に生き生きとしており、病と向き合いながらも主体的に人生を切り拓いていく強さを感じさせるものでした。そこには単なる「闘病」という言葉では表現しきれない、人生を自らの手に取り戻そうとする意志と誇りが感じられました。

写真2:SBMA患者さんによるプレゼンテーション

写真2:SBMA患者さんによるプレゼンテーション

 二日目の夜にはチャリティオークションが開催され、患者自身が司会者となって進行するという印象的なイベントが行われました。会場は笑いと熱気に包まれ、参加者は思い思いに品物に入札し、その収益が患者会活動の貴重な原資となっているようです。また、患者会のロゴ入りトレーナーやマグカップなどのグッズ販売も行われており、その運営の工夫とエネルギーには目を見張るものがありました。ボランティアや寄付に対する社会的背景の違いから、これらの取り組みをそのまま日本に適用することは容易ではありませんが、患者、研究者、患者会が一体となって活動を支える構造は、今後の日本における希少疾患研究の在り方を検討する上で重要な示唆を与えるものであると感じました。

 私は「International Survey on Genetic Literacy and Awareness in Patients with Spinal and Bulbar Muscular Atrophy」と題して発表を行いました。本研究は、日本のSBMA患者会(SBMAの会)、国際患者会であるKDA、さらにKennedy’s Disease-UK(KD-UK)と協働してアンケートを実施し、遺伝リテラシーに関する実態を国際的に比較検討したものです。基本的な遺伝学知識、遺伝情報の共有や発症前診断に対する意識、生殖医療技術への理解、遺伝カウンセリングに対する認識などを調査し、地域や年代による特徴的な差異を明らかにしました。この研究を論文化するにあたっては、患者会の主要なメンバーにも共著者として加わっていただき、本年のNeurology Genetics誌に掲載されました1)

 本研究を通じて、患者・家族との信頼関係を基盤とした研究の重要性を改めて認識するとともに、今後は双方向コミュニケーションのさらなる充実、遺伝カウンセリング人材の育成、国際連携の深化が不可欠であると強く感じました。とりわけ、日本においてはPatient and Public Involvementの推進が十分とは言えず、研究と医療の質を高めるうえで重要な鍵となると考えられます。

 また、本学会では共同研究者と直接対面し、これまでの協力に対する感謝を伝えることができました(写真3)。共著者として加わっていただいたKDA代表のTerry Thompson氏をはじめ、Kathy氏、KD-UK代表のKim氏らと直接言葉を交わすことができ、国際共同研究のつながりの実感が一層強まりました。Thompson氏ご自身は患者ではないにもかかわらず、その献身的な活動と、コミュニティ全体の未来を真剣に見据える姿勢には深く心を打たれました。

写真3:KDA代表のTerry Thompson氏とともに

写真3:KDA代表のTerry Thompson氏とともに

 自身の英語力の未熟さに悔しさを感じる場面も少なくありませんでしたが、それ以上に、世界中で同じ疾患に向き合い、研究や支援に尽力する仲間がいることを実感できたことは大きな収穫でした。この場に立てたことへの感謝とともに、自分もその一員として何かを積み重ねていきたいという思いが自然と湧き上がってきました。

 フロリダの青い空と開放的な雰囲気、そして会場に満ちていた熱気と希望。そのすべてを胸に刻みながら、この経験を今後の研究と臨床に確実に還元していきたいと考えております。

1) Yamada S, Hashizume A, Ito D, Kishimoto Y, Komori S, Kawase T, Kondo A, Kiya Y, Nakatsuji H, Suzuki Y, Tako Y, Hamada Y, Slowe K, Thompson KA, Thompson T, Katsuno M. International Survey on Genetic Literacy and Awareness in Patients With Spinal and Bulbar Muscular Atrophy. Neurol Genet. 2026;12(1):e200336.

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