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神経治療最前線 海外学会参加報告
2024年米国神経学会総会(AAN2024)
2024年米国神経学会総会(AAN2024)
Denver, Colorado, America
2024年4月13日〜18日
﨑山 佑介
鹿児島大学大学院医歯学総合研究科脳神経内科老年病学講座
2024年米国神経学会総会(AAN2024)
米国神経学会の第76回年次学術集会(2024 AAN Annual Meeting)は、コロラド州デンバーの街で4月13日から18日までの6日間にわたって開催されました。そのプログラムには、7つのプレナリー・セッション、209の教育講演、257の双方向学習ハブ、43の一般講演、そして11のポスターセッションが含まれていました。特筆すべきは、ポスター発表がタッチパネル画面で行われ、朝、昼、夕とそれぞれのセッションごとに新しい映像が追加されていた点です。ポスターを持参する必要がなく、さらにパワーポイントのスライドショーのようにページ送りもできるため、予算があれば日本の学術大会でも検討してほしいシステムでした。
講演の中で特に印象深い、初日のプレナリー・セッションについてご紹介します。米国ジョージア州エモリー大学医学部の脳神経外科医であるSanjay Gupta氏が、「The Future of Brain Health」をテーマに、司会進行役の女性2名と対談する素晴らしい企画がありました(写真1)。彼はCNNのチーフ医療特派員として活躍し、世界各国の災害における健康と医療のニュース報道に貢献し、複数回のエミー賞を受賞。2019年には全米医学アカデミーにも選出されました。さらに、数多くの著書も執筆されており、近年では「Keep Sharp: Build a Better Brain at Any Age(日本では:SHARP BRAIN たった12週間で天才脳を養う方法)」と題した作品では、脳の健康や認知機能を高める方法を脳科学的に分析しています。本学会は、アルツハイマー型認知症の原因物質であるアミロイドβの除去を目指した新規治療薬レカネマブなど、神経治療学分野のトピックスに焦点を当てていますが、学会初日のメインテーマにアルツハイマー型認知症を予防する「Brain Health」を企画した。このプログラム構成に、主催者の明確なメッセージが込められていたのではないでしょうか。さらに、双方向学習ハブでは「Magic and Medicine」という題名で、マジックショーと神経学の対話を通じて脳を活性化する企画もありました。参加者も主催者も、お互いに楽しめる学会運営が行われ、それが学術的な探究とエンターテイメントを組み合わせた素晴らしいイベントとなったように思います。
専門領域である神経感染症分野において、新たなトピックスは見当たりませんでしたが、神経感染症は通常、以下のカテゴリに分類され、それぞれに特徴的な起因菌を整理することを再認識しました。まず、①Limbic encephalitisでは、ヘルペスウイルス属、神経梅毒、自己免疫疾患などが鑑別のポイントとして挙げられます。②Subcortical white matter diseaseでは、コクサッキーウイルスB5やJCウイルス、HIVなどが関連しています。③Deep Gray matter diseaseでは、フラビウイルス(日本脳炎ウイルスなど)が主要な要因です。④Cerebellitisでは、水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)、West Nile virus(WNV)が関連します。⑤Rhomboencephalitisでは、マラリアが関与することがあります。⑥Vasculitisでは、水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)、単純ヘルペスウイルス2型(HSV-2)、梅毒、結核、アスペルギルスなどが関連します。FMeningitisは、周知のとおり、急性、亜急性、慢性、そして再発性に分類します。その他、Brain abscessを評価する際には、SITES(Syndrome、Immune status of the host、Tempo of clinical presentation、Exposure history、Systemic “extra-neurological” disease)が問診の重要なポイントとなります。上記カテゴリー分類をもとに、清書や論文の情報を加えて神経感染症を整理していくのが、知識の定着によいかもしれません。
この度、卒業してから22年が経ち、初めて国際学会での口頭発表の機会を得ることができました。留学の経験がない私にとって、アメリカで英語のプレゼンをすることは一大挑戦であり、それに伴う緊張も相当なものでした。しかし、新しい世界に飛び込む喜びも同じくらい大きかったように思います。
私のプレゼンは8分間で、その後に4分間の質疑応答がありました。このため、専門家に2時間の口頭発表の指導を受けました。毎日、音声ファイルを繰り返し音読する日々は続きましたが、もちろん、短期間で英語力が飛躍的に向上するわけではありませんでした。しかし、流暢に話すことができない場合でも、研究の核心を強調し、余計な細部を省くことでプレゼンの本質を追求しました。
発表当日は、無理をせずゆっくりと発音し、自分の持てる最善を尽くしました(写真2)。思いがけず、発表後には参加者から「Good job」と称賛され、数名から声をかけていただきました。また、私の専門である神経感染症のメタゲノム解析の分野で、著名な研究者であるコロンビア大学のCharles Y. Chiu先生とお話できたことも素晴らしい経験でした。
国際学会での口頭発表は、海外の専門家との対話の機会を提供してくれます。そして、米国の人々は、日本人が英語を話せないことを全く問題視しません。むしろ、相手の専門分野や興味を尊重し、好奇心を持って接してくれます。英語でさまざまな人種の人々と交流することが、脳の健康にも良い影響を与えることを期待して、帰国後は翻訳アプリに頼る頻度を減らすよう努めています。
学会主催の懇親会が終わり、送迎バスに乗り込むと、偶然にも隣に座った67歳の脳卒中専門医が、興味深い話をしてくれました。彼は長年医師としてのキャリアを積みながら、マサチューセッツ工科大学の建築学科にも専攻したことを明かしました。その理由は単純で、「ただ建築に興味があったから」というものでした。彼が笑顔で話す姿を見ていると、好奇心とチャレンジ精神が人生を豊かにすることを改めて感じました。その短い会話だけで、私の脳が若返ったのは、錯覚でしょうか。
最後に、デンバーについて触れたいと思います。その開催都市はロッキー山脈に抱かれた山岳地帯の中心にあり、一年中300日もの晴天が広がるとか。この街はコロラドビールの名所でもあるから、穏やかな日差しの中で、クラフトビールとバーガーを楽しむ日々は、心を躍らせるものでした。治安も良く、街全体が清潔で、ローキー山脈の美しい山並みも好印象を与えてくれました。しかし、その快晴も一転、4月18日には天候が悪化。気温が2度まで下がり、雪降るなかにビールを飲むこととなりました。その日、足を運んだのはデンバー自然科学博物館。地元の小学生たちで賑わう館内を歩き回り、1階の宝石や鉱物の展示に圧倒。動物、恐竜、エジプトの展示、海洋、宇宙のブースも見応えがあり、特に動物の剥製コーナーはリアルな野生動物の姿を見せてくれました。2階には健康と体に関する展示があり、人骨の模型や筋肉の模型が設置されていましたが、驚いたことに、それらは本物のヒト献体でした。日本では見られない展示に、筋電図を専門とする後輩は、筋肉の解剖を熱心に撮影。その姿は、現地の子供たちにどのような印象を与えたのでしょうか。リアルさを追求するデンバー自然科学博物館は、大人も子供も魅了する場所でした。
デンバーの美しい景色と魅力的な文化に触れながら、学術的な探究と交流を楽しんだこの学会は、私にとって忘れられないものとなりました。これからも臨床に役立つ研究を継続して、医療の進歩に貢献してまいります。
写真1 プレナリー・セッション
写真2 著者の口演