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神経治療最前線 海外学会参加報告

29th International Symposium on ALS/MND 2018

29th International Symposium on ALS/MND

第29回ALS/MND国際シンポジウム

29th International Symposium on ALS/MND
Glasgow/ United Kingdom (Scotland)
2018年12月6日〜8日

荻野 美恵子  国際医療福祉大学医学部医学教育統括センター

 2018年12月6日から3日間にわたり29th International Symposium on ALS/MND が英国Glasgow で開催されました。
 毎年前日にYearly symposium of the WFN Research Group for ALS/MND
(memberのみのclosedの会です)が開催されるのですが、今年はbiomarkerについての話題でした。Neurofilamentを中心とした血清およびCSFのバイオマーカー、画像、電気生理検査のバイオマーカーについて現状と活用について発表があり、診断基準に含めるべきかというディスカッションが行われました。その中でSNSを使用した投票が行われたのですが、世界中の国を代表するALSエキスパートが集まったその部屋では、少なくとも現在のバイオマーカーやEl Escorialに頼ってALS診断をしている人はほとんどいないという事がわかり、投票結果がスクリーンに映し出されると笑い声が上がっていました。まだまだAIには頼れない領域のようです。

 今年は初めてPlenary speakerとして招待いただいたので、気もそぞろで十分な聴講ができなかった気がします。自分自身の発表はアングロサクソンの文化とは異なる価値観や葛藤があることを伝えたつもりですが、(笑いはとったものの)うまく伝わったか少々心配です。

 Clinical trial のセッションでは、あまり新しい知見はなく、抗炎症作用があるNP001のphase 2B trial は、進行抑制作用やbiomarker としてのCRPの有用性は証明できなかったと報告されました。Technology のセッションではコンピューターを利用した言語解析が構音障害の程度を定量的に判定でき、治験の評価項目としても有用であること、主に米国から遠隔医療telemedicineにおける呼吸機能検査をはじめとする家庭での計測の有用性についての発表があいつぎました。また、日本では既に都立神経病院を中心として有用化されていると思いますが、voice bankingのpilot studyの報告がありました。最終日にはP Shaw先生からエクササイズとALSの関係についてのこれまでのエビデンスを検証した上で、最新の自らの研究で相関することを示し、ALS/MND researchの一つのターゲットとすべきではないかと提案がありました。

 昼食会場では連日種類の違うハギス(スコットランドの伝統料理)が用意された(ハギスの感想は書きにくいです)横で、展示がありましたが、P Shaw(女性教授)率いるSheffieldのグループが熱心に開発して発表していたHead Up Collar(写真1)が商品となって展示されていました。数年前から発売していましたが、継続できているところを見ると、研究からの商品化が成功していることがわかります。基礎研究も超一流なのですが、ケアについての研究も多く、頭が下がります。また、首下がりについての補装具(head up brace)も展示されていました。10年ぐらい前に自分自身も取り組んでいたので、着用させてもらいました(写真2)。思ったよりおでこの食い込みがなくよい感じでした。いつも明日からもっと頑張ろうと思って帰ってくる学会です。

狩野  修  東邦大学医学部内科学講座神経内科学分野

 2018年12月6日から3日間にわたり、第29回ALS/MND国際シンポジウムがグラスゴーで開催されました。一昨年のダブリン、昨年のボストン同様、極寒の地でしかも12月に行われるのがこの学会の特徴でもあります。また、エリザベス二世の第一王女であるアン王女がご来賓としてご参列され、会場も厳かな雰囲気に包まれていました。

 オープニングセッションのトップバッターとして、コロンビア大学の三本博先生から新たなクリニカルトライアルのガイドラインについてのご講演がありました。2016年にAirlie Houseで行われた会議の内容で、“Revised Airlie House”(Neurology誌に2019年に掲載予定)という名称になりそうです。

 また今年からディベートに関するセッションが新たに設けられ、“Defining ALS/MND”と題して、コメンテーター同士がジョークを交えながらディスカッションを展開し、会場は大いに盛り上がりました。またアプリを使って会場の参加者に投票してもらう企画もあり、「El Escorialを用いたALS診断」に対して8割以上の方が反対の考えを持ち、さらに「ALSの臨床試験デザイン」に関しては、9割以上の方が改善を求めているという結果でした。同じ神経変性疾患のパーキンソン病では、臨床と病理診断が8割程度しか一致しないにもかかわらず新薬が次々に登場している点、また多発性硬化症も病型を分けることによって、治療薬がある病型とない病型に分けられている点などを十分に参考にするべきとの意見が聞かれました。最後に司会者も、“The right drug for ALS patients”から“The right drug for the right patients at the right time”への変化が必要とまとめていました。

シンポジウムの企画としては、例年よりバイオマーカーのセッションが増え、今、最も注目されかつ必要とされている分野であると感じました。幸いにも、私の演題が“TissueBiomarkers”セッションのオーラルに選ばれ、大変貴重な機会を得ることができました。Biomarker-basedのクリニカルトライアルの実現に向け今後も努力していきたいと思います。

 来年は、温暖なパース(オーストラリア)での開催です。直行便がないので時間はかかりますが、時差が1時間しかないので、是非参加したいと考えています。

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写真1 : "Defining ALS/MND"と題したディベート

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写真2 : 初日の会食(学会近くのインド料理店)

木田 耕太   東京都立神経病院 脳神経内科

 2018年12月7日から3日間にわたり、29th International Symposium on ALS/MNDが英国グラスゴーで開催されました。ALS/MNDに特化した学会としては世界最大規模とされ、今回も世界中から多くのALS関係者が集結しました。MND Scotlandの名誉総裁であるアン王女も来賓としてご列席され、そのご挨拶の中で、前回英国グラスゴーで開催された20年前の参加人数500人から、1200人へと増加した本学会、そしてこの間の研究の進歩とこれからについて励ましのお言葉を述べられました。5年前のミラノでは900人との発表でしたので、年々参加者は増加していること、特にALS患者さんや医師以外のメディカルスタッフの参加者が増えていることを肌で感じました。

 例年シンポジウムはScientific sessions、Clinical sessionsの2会場を中心として展開していましたが、本年はこれまでこれらに分類されていた中からNeuropathology、Neurophysiology、Epidemiology、BiomarkersなどのテーマがAlternative sessionsとして独立し、3会場で展開され、例年以上に充実したラインアップとなりました。Clinical sessionsでは例年以上に新たなテクノロジーや進行期の臨床経過などについてのセッションにボリュームが割かれていました。診断、新規治療、臨床試験はもちろんですが、患者・家族サポート、QOL、緩和ケアや終末期の意思決定についても例年活発なディスカッションが繰り広げられるのが本学会の特徴です。最終日の終末期の意思決定についてのセッションでは、安楽死が合法化されているスイス、一部の州で近年Medical Assistance in Death (MAiD)が合法化されたカナダの現状に引き続いて、日本の難病緩和ケアのトップランナーである荻野美恵子先生による本邦におけるHastened deathに関する基調講演があり、それぞれの実情、問題点、今後への希望・課題などについてディスカッションが展開されました。 2年ほど前から目立ってきた遠隔医療(tele medicine)について、具体的な取り組み、データについての発表も見られ、ITネットワークの進歩に驚くのと同時に、身近に接するfamily、caregiverの重要性についても改めて強調されていたのも印象的でした。

 今回も、朝から、そして夕方まで刺激的な演題を聞くことができ、ランチタイムのPACTALSミーティングなど,とても実りの多い時間を過ごすことができ、今後の診療・臨床研究への課題も見いだすことができました。来年も参加できるよう、日々の研鑽を積んでいこうと決意を新たにしました。

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写真1 : 会場へ向かう途上,グラスゴー市街.午前8時はまだ夜明け前です。

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写真2 : 会場内外の様子

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