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神経治療最前線 海外学会参加報告

2011 Peripheral Nerve Society

2011 Peripheral Nerve Society (PNS) Biennial Meeting 報告

楠 進(近畿大学神経内科)

2011 PNS Biennial Meeting of the Peripheral Nerve Society
Potomac, Maryland / USA
2011年6月25日〜29日

2011 Peripheral Nerve Societyの学術集会は、2011年6月25日(土)から29日(水)の期間、アメリカ合衆国の首都ワシントンDCから車で30分くらいの、メリーランド州のPotomacにあるBolger Centerで開催された。この学会は、それぞれ独立して開かれていた二つの末梢神経に関する研究会が合同する形で、1994年にミネソタ州Saint Paulで開かれたのがはじめであり、1995年にトルコのAntalyaで開かれた以降は、2年に一回、アメリカあるいはヨーロッパで開催されている。筆者は、1997年に英国のCambridgeで開かれた本学会にはじめて出席して以来、今回まで毎回出席している。もっとも印象深かったのは、2001年のオーストリアのTyrolでの会であり、開催中に9.11テロがおこった。その時のアメリカ人出席者たちの沈痛な表情を今でもよく覚えている。

さて、今年の学会も、いつもと同じく初日のWelcome Receptionにはじまり、2日目の炎症性ニューロパチーで実質的な学会が始まった。その中から治療に関係するいくつかの演題を紹介する。
イタリアのNobile-Orazioたちは、慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー(CIDP)に対する免疫グロブリン大量療法(IVIg)と静注のmethylprednisolone (IVMP)のパルス療法の、ランダム化二重盲検比較試験の結果を報告した。IVIg (2g/kg)にIVMPのプラセボを加える治療と、IVMP (2g)にIVIgのプラセボを加える治療を、6か月にわたって毎月行い比較するものである。治療効果や有害事象を比較すると、IVIgがより有用との結果であった。
またフランスのLegerらは、抗MAG IgM M蛋白を伴う脱髄性ニューロパチー(IgM-DN)に対するRituximabのランダム化プラセボ対照試験の結果を報告した。IgM-DNは有効な治療法の確立していない疾患であるが、DalakasらによりRituximabに有意な効果がみられると報告されている。そこで今回48例を対照として検討されたわけであるが、治療効果に有意の差はみられないという結果であった。
最終日にはCMT 1Aに対するアスコルビン酸のランダム化比較対照試験の結果が報告された。1年の試験はこれまでに3つ行われており、有意の効果は得られていなかった。今回は、イタリアと英国の共同研究として行われ1500mg/日のアスコルビン酸を2年投与してプラセボと比較するものであったが、やはり有意の効果はみられなかった。
またTransthyretin (TTR) の異常による家族性アミロイドニューロパチーに対するTafamidisの効果が報告された。TafamidisはTTRに結合して安定化する物質である。18か月のプラセボ対照試験で疾患の進行を抑制することが示されたが、さらに引き続いて両群に12カ月実薬(Tafamidis)を投与してその後の経過をみた。その結果は、最初の18か月に実薬を投与されていた群が、有意にその後の12カ月の変化もより少ないことがわかり、早期の治療開始の重要性が示された。
同じくTransthyretin異常によるFAPでは、RNAiによる治療も検討されている。V30M変異を有するトランスジェニックマウスに対する治療について有望な効果が得られているため、ポルトガル、スゥエーデン、英国、フランスでPhase 1試験が2010年半ばに開始されたということである。

一方、PNS本体が開催されない年に、その分科会のような形でInflammatory Neuropathy Consortium(INC)の学術集会が開かれている。今回のPNSでは、INCのBusiness Meetingが開かれたが、そこで現在計画されているいくつかのスタディについての検討が行われた。Guillain-Barre症候群(GBS)については、数年来計画されてきたInternational GBS Outcomes Study (IGOS)が間もなく始まろうとしている。これは希少疾患であるGBSについて、世界各国の症例を登録して1000例程度を集め、予後や重症度などについての疫学的解析のみならず、血清や遺伝子も集積しようというものである。オランダが中心となっているが、日本およびアジア諸国からの参加も期待されている。またIGOSと並行してすすめられているのがI-SID (International Second Dose of IVIG in GBS in patients with a poor prognosis)である。これは、予後不良と予測されるGBS症例について2回目のIVIgを行って効果を検証するものである。その他にも、CIDPについては、alemtuzemabや fingolimodなど多発性硬化症で開発がすすめられている治療薬の導入が検討されている。

先にも記載したように、PNSの学術集会は2年おきに開かれており、次回は2013年にフランスで行われる。一方、INCは来年の6月にオランダで開かれることが決まっている。今回は、やや日本からの参加者が少なかった印象であるが、いつものようにBanquetでは青森県立中央病院の馬場正之先生とドイツのToyka教授の演奏が行われ、今回はさらにアメリカのLewis教授も加わっての三重奏が披露された。この領域における日本の存在感をさらに向上させるためにも、次回以降の日本からの参加者の増加と、できれば日本でのPNSあるいはINCの開催が実現すればいいと考えている。PNSのホームページ(http://www.pnsociety.com/)も参照いただきたい。

写真1 Bolger centerの学会場。休憩の間、外に出て談笑する参加者たち。

写真1) Bolger centerの学会場。休憩の間、外に出て談笑する参加者たち。

写真2 学会場から、宿泊施設への小道。夜には多数のホタルがみられた。

写真2) 学会場から、宿泊施設への小道。夜には多数のホタルがみられた。

写真3 6月27日(月)の午後、excursionで訪れたワシントンDCのCapitol(アメリカ合衆国国会議事堂)の前で(海田賢一先生撮影)。

写真3) 6月27日(月)の午後、excursionで訪れたワシントンDCのCapitol(アメリカ合衆国国会議事堂)の前で(海田賢一先生撮影)。

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