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神経治療最前線 海外学会参加報告

2024年米国神経学会総会(AAN2024)

2024年米国神経学会総会(AAN2024)

Denver, Colorado, America
2024年4月13日〜18日

森 泰子
岐阜大学脳神経内科

2024年米国神経学会総会(AAN2024)

 2024年4月13日から18日に、アメリカ合衆国コロラド州デンバーのコロラド会議場にて開催された2024年米国神経学会総会(AAN2024)に参加しました。今回の学会参加は私にとって初めての海外学会であり、さらに1人で参加するという形になり、不安を抱えての参加でしたが、結果的には今後のモチベーションにも繋がる充実した経験をすることができました。

コロラド州

 コロラド州はアメリカ合衆国の中西部に位置し、国立公園を多数抱える自然豊かな州です。一方、会場となったデンバーは比較的高いビルも多数見られるような都市で、スポーツや芸術も盛んな土地です。有名な球場や、美術館、博物館が多数ありました。コロラド州はテディベアの発祥の地であり、熊との関連も深いのか、会場のコロラド会議場にはBlue Big Bearと呼ばれる12 mの巨大な熊のモニュメントが会場内をのぞき込むような形で造られていました。学会中はその熊に打腱器を持たせるという細工がされていました。

米国神経学会の魅力

 米国神経学会の魅力を挙げ始めると、その大きな規模や高いレベルの研究などきりがありませんが、私は特に「双方向性」「革新的」「ユーモア」「キャリアやQOLも重視」の4つを挙げます。
 その中でも1番は「双方向性」です。これには講演者と聴衆という面と、同じテーマの中での是非の面の2つの意味があります。日本の学会や勉強会では、各分野のスペシャリストが講義する、また新薬・新技術の画期的な点を紹介する光景が多く、その中で副作用などの注意点としてマイナス面が提示されることが多いかと思います。講演の中で1−2個質問が出ればいいものの、多くは一方的な講義の形になっている場合が多いです。一方で米国神経学会ではプレゼンの導入、途中経過、まとめの場面で聴衆の側がどのように普段考えているか、プレゼンを聞いてどう思ったかなど、スマートフォンの投票や質問を通じて意見を反映させる場がありました。特に新鮮でかつ、興味深かったのは、ディベート形式のプレゼンです。例えば「脳波の判読にAIを使うことは、有用か、有用ではないか」というテーマをスペシャリストが賛成派・反対派に分かれてプレゼンし合い、最終的な判定は聞いていた聴衆が決めるというものでした。どんな画期的な治療や機器としても医療で使われるものの多くは実際には良悪両面あるものであり、そのことを改めて認識できるという点、それを考える場に自分も飛び込んでいる感覚になりました。
 次に「革新的」という点です。先に挙げた聴衆の意見を反映させる仕組みでスマートフォンを使用している点とも関連しますが、基本的に新たなツールを怯えず使っていこうというスタンスが垣間見えました。例えば、X(旧ツイッター)で総会開催前から#AAN2024で学会について皆で呟こうと呼びかけ、インターネットツールをフル活用して学会を盛り上げようとしていたり、AIをどうやって組み込むかの話し合いの場であったりが持たれていました。新しいとは言え、トラブルも倫理的問題もついて回るシステムですら、うまく使っていこうという姿勢に革新的さを感じました。
 超大規模で最先端な学会ですが、真面目一辺倒なだけではない点も魅力です。会場の至る所に「ユーモア」が溢れていました。理事の方たちが、戦隊人形に扮した展示があったり、公式ゆるキャラと思われる脳みそ君やBlue Big Bearの着ぐるみが会場を歩きまわっていたり、クスっと笑わせてくれる場面があったのもこの学会の魅力です。
 学会全体で、医療を進歩させることと同じくらい、医師としての「キャリアやQOLも重視」しているという点も魅力かと思います。会場で行われている企画の半分は、医学ではなく、働いている人に焦点を当てたものでした。キャリアを形成するために医療現場からの離脱予防、メンターをどう見つけるか、研究はどうテーマを見つけたらいいか、気分転換はどういう方法がいいか、組織の中でリーダーシップを発揮するにはどうしたらいいかなどの分野も沢山用意されていました。講義形式だけでなく、少人数で意見を交換する場もありました。医療・医学の持続可能性を基盤となる“人”から支えていこうとしているのだと思いました。
 そのほかにも総会パーティーや充実した昼食などとても楽しい時間を過ごせました。参加者同士の交流の場があり、新らたに友人を作ることもできました。余談ですが、ほとんどの女性がハイヒールの靴ではなく、歩きやすい靴で会場を回っていた点はとても羨ましかったです。

ポスター発表の報告

 今回の学会で、私にとってメインイベントはポスター発表でした。「Spinocerebellar ataxia 27B with grip myotonia:case report and literature review」という演題で発表しました。2022年末から2023年初頭にかけて新規に遺伝子が同定された脊髄小脳変性症のSCA27Bの症例で発作的なgrip myotoniaが観察されたこと、またこれは原因遺伝子から翻訳される蛋白のFGF14がNaチャネルを制御していることが関連しているのではないかという内容を発表しました。元々英語の会話に慣れているわけではなかったので、事前に何パターンかのプレゼンスタイル、想定質問をつくり、耳を鳴らすためにYouTubeの英語講座で早い英語を聞き取る訓練をしました。また、当日は折角アメリカまで来たのだからと、3秒立ち止まった人は自分から話しかけてプレゼンするという作戦で臨みました。初めての海外学会での発表ということもあり、はじめは緊張しすぎて隣のプレゼンターに心配されてしまいましたが、結果的には10人以上と充実した議論ができました。発表を聞きに来てくれた人というバイアスはあると思いますが、新しい遺伝子変異や病気の特徴について知っている人が予想外に多く、貴重な質問や意見もいただけたので持ち帰って今後の診療に生かしていこうと思いました。たどたどしい英語になっても何とか聞き取ろうとしてくださった方々にはとても感謝です。次はより専門的で深い議論ができるよう英語の基礎力を挙げて再チャレンジしたいです。

印象に残った研究

 どの講演も分かりやすく、ポスター発表も同世代や医学生も日々診療や研究を頑張っている姿にモチベーションが上がりました。特に興味を持った研究としては、SCA27B患者で治療薬として期待されている4アミノピリジンに効果があるのはリピート数が多く眼振を合併する症例である、という私自身の発表症例の患者の治療につながるような研究、脳炎の稀な抗体での臨床像、また、コロナ禍を経て分かった、社会的孤立感の神経疾患に与える影響などが特に面白かったです。今回のポスター発表では症例報告でしたが、研究の形でまとめて発表もできるようになりたいと思いました。

観光の思い出

 初めてのアメリカ渡航でしたので、時々学会会場を抜け出して観光にも行きました。デンバー動物園、デンバー美術館、デンバー自然博物館といった施設は、日本と比べて規模が壮大で楽しかったですし、教会、市役所、州議事堂など街を歩くだけでも見られる建築物は異国ならではの雰囲気を感じられてとても興味深かったです。2800円した豚骨ラーメンだけは、日本で食べる味が勝っていると思いました。

最後に

 早めに米国神経学会を経験しておくといいとアドバイス下さり、締め切り直前の時間のない中で抄録のご指導いただきました下畑享良教授、その他にも発表に際して、ご指導・ご協力いただいた共同演者の先生方にこの場を借りて感謝申し上げます。
 岐阜大学では、若手にも米国神経学会への参加を積極的に支援してくださいます。自分も早くから海外学会に挑戦してみたいと思う方は、是非とも仲間になりましょう。

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