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神経治療最前線 海外学会参加報告

ASENT ANNUAL MEETING 2024

ASENT ANNUAL MEETING 2024

ASENT ANNUAL MEETING 2024
Hyatt Regency Bethesda in Bethesda, MD
2024年3月12〜14日

北海道大学病院 医療・ヘルスサイエンス研究開発機構
プロモーションユニット 臨床研究開発センター
佐久嶋 研

1.はじめに

 米国実験的神経治療学会(ASENT: American Society for Experimental Neuro Therapeutics)の年次総会(ASENT 2024)が2024年3月12〜14日にかけてワシントンDC近郊のベセスダで開催された。新型コロナウイルスのパンデミックにより、オンライン開催が続いていたが、今回は2020年以来の対面開催であった。年次会合総会には、企業、アカデミア、行政、支援団体から250名近くが参加し、新たな取組みとしてTraining in Neurotherapeutic Clinical Trials: Development and Implementationも併せて開催された。
 日本神経治療学会からは国際化委員会の藤原一男委員長、佐久嶋 研幹事に加えて、順天堂大学脳神経内科の奥住文美先生が参加した。奥住先生はシンポジウム「Fluid Biomarkers as endpoint for neurodegenerative diseases」にて、パーキンソン病の血液バイオマーカーに関する最新の研究結果を発表した(この発表の主な結果は、Okuzumi A, et al. Nat Med. 2023;29(6):1448-1455.に掲載されている、写真1)。佐久嶋幹事は、藤原委員長とともにjRCT(臨床研究等提出・公開システム、https://jrct.niph.go.jp/)に登録されている実施中の神経疾患に対する医師主導治験とアカデミアによる研究支援体制を紹介するポスター発表を行った(写真2)。

2.ASENT 2024の概要

 ASENT 2024の主なトピックは、神経変性疾患におけるバイオマーカー、プラットフォーム試験等の新しい試験デザイン、遺伝子治療、デジタルバイオマーカーなど多岐にわたっていた。特に目を引いたのは、プラットフォーム試験の紹介で、脳卒中領域で構築されてきたStrokeNetの経験が紹介されるとともに、筋萎縮性側索硬化症(ALS)におけるプラットフォーム試験であるHealey ALS Platform Trialsについて、立ち上げ時の取組みや試験デザイン上の工夫が詳細に説明された。中心的なセッションのひとつに「Pipeline Presentations」と「Platform Presentations」があり、ポスター発表として登録された演題の中から、科学的かつ臨床的なインパクトのある発表をポスター発表に加えて口演で紹介するというものがあった。主にスタートアップ企業やアカデミアによる新たなシーズの紹介やシーズ開発につながる新たな治療ターゲットの発見を紹介していた。これらのセッションでは産官学の関係者が、開発者目線を持ちながら活発な質疑応答をしており、米国の医薬品開発の雰囲気を感じることができた。また、ベセスダにはNIHがあることもあり、NIHからの参加者が研究資金を提供する視点でアカデミアの発表に対してコメントしていた点も印象的であった。
 一方、ASENTは神経領域の新規治療開発に関する種々の課題を議論することに重点を置いており、日本の脳神経内科関連の学会でよく行われている疾患の診断や病態、また比較的最近承認された薬剤の使い方などを解説する共催セミナーは少ない。そのため、スポンサーが集まりにくいことがASENTの直面している大きな課題の一つであり、私たちも参加した理事会でもその打開策について議論された。

3.Training in Neurotherapeutic Clinical Trialsについて

 ASENTでは年次総会にあわせて臨床試験・開発に関するトレーニングコースを開催しており、2024年はTraining in Neurotherapeutic Clinical Trials: Development and Implementationが開催された。神経治療学会からの参加者は同トレーニングコースには参加しなかったものの、参考情報としてプログラムを情報提供してもらった。プログラムに基づくと、2日間にわたるトレーニングコースとなっており、主な内容は米国における治験届のプロセスとそれに必要な非臨床試験に関すること、第T相試験としての臨床薬理試験に関すること、第Ⅱ/Ⅲ相試験と試験デザインに関することで構成され、コースの最後には与えられたシナリオに基づき第V相試験のプロトコルをグループワークで作成するという充実した内容のものであった。プログラムには参加者が紹介されており、医師が2割程度、様々な領域のPh.Dが8割程度という構成であった。ASENTを構成するメンバーが多種多様な領域・専門性から集まっていることを感じるととともに、米国のアカデミアにおける医薬品等の開発を担っている専門性が垣間見えた。このトレーニングコースのように医薬品開発に関わる様々な専門性が交流する機会を、ASENTを通じて持つことの意義を改めて感じた。

4.ASENTと神経治療学会について

 日本神経治療学会(JSNT)は、2010年からASENT年次総会にメンバーを派遣し連携を図っている。ASENT 2024でも、ASENTとJSNTの連携がいくつかの場面で紹介されていた。奥住先生の講演や佐久嶋幹事によるポスター発表もJSNTに対する理解・関心を高めることにつながったと思われる。一方で、ASENT 2024の参加者から日本の神経疾患に対する医薬品等の開発状況や開発環境に関する英語情報の有無を訊かれる場面もあった。日本で研究開発が盛んな疾患領域や開発支援に関する制度・予算規模などについて、英語での発信を積極的に行うことが、米国のアカデミアやスタートアップ企業等の日本への理解を深めることにつながると思われた。
 なお、近年JSNTでは学術集会ごとにASENTの演者を招いて講演をしていただいており、今年の11月7(木)〜9日(土)に幕張メッセで開催される第42回学術集会でもASENT Lectureを予定している。

5.おわりに

 近年、海外で既に承認されている医薬品が日本で承認されるまでに期間を要するドラッグ・ラグや日本での開発が着手されないドラッグ・ロスが再び問題となっている。その要因の一つに米国等において新興バイオ企業による開発の占める割合が増えていることが挙げられている。ASENTには大企業だけではなく多くの新興バイオ企業も参加しており、今後のASENTとJSNTのつながりが、神経領域におけるドラッグ・ラグ/ロスの解消の一助となるように更なる交流・連携が期待される。

写真1

写真1

写真2

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