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神経治療最前線 海外学会参加報告

2023 PNS

2023 Peripheral Nerve Society Annual Meeting

2023 Peripheral Nerve Society Annual Meeting
Copenhagen, Denmark
2023年6月17日〜20日

内 孝文
東邦大学医学部医学研究科神経内科学講座

2023 Peripheral Nerve Society Annual Meeting

 6月17日〜20日に開催された2023 PNS(Peripheral Nerve Society) annual meetingに参加しました。新型コロナウイルス感染症の流行が落ち着きを見せてきたこともあり、全47か国からの現地参加者は800人以上、オンデマンド参加者は1000人を超える盛況でした。特にアフリカ諸国から11人の参加者がいたことにも驚きを覚えました。

 今回は北欧の地、DenmarkのCopenhagen空港の近くにあるBella Centerが開催地でした。緯度が高く日の出が4時頃、日の入りが22時半頃で市街は夜になっても明るく賑やかでした。開催日ごとの興味深かった演題をいくつかご紹介いたします。

 初日の参加はかないませんでしたが、プログラムを見る限り教育講演が充実しておりました。Ranvier絞輪におけるion channelの機能や細胞接着分子と細胞骨格の話に始まり、Ranvier絞輪の髄鞘破壊やパラノード部の障害の話題まで至る幅広い話は興味がつきません。末梢神経障害は大小さまざまな神経線維が関与しており、その障害神経のサイズにより分類されます。障害パターンの特定には神経生理学的検査、場合によっては神経または皮膚の生検、遺伝子検査による鑑別診断の絞り込みが必要です。この診断アプローチに焦点をあてた講演もあったようです。

 2日目は最近注目されているATTRアミロイドーシスの診断、管理の話題が朝一番の講演でした。午前のセッションで特に目を引いたのは、Schwann細胞が障害を受けた時、再生のために自身の再プログラミングを行う機能やミエリンを維持するための転写因子に対する検討でした。ヒトSchwann細胞における新たなエピゲノム資源を目にしたことで遺伝子調節ネットワークがヒトでどのように保存されているかをチェックすることができつつある、というものでした。Chronic inflammatory demyelinating polyneuropathy(CIDP)に対する考えの変遷と現在の潮流も興味深いものでした。当初はステロイドに反応性のある進行性ニューロパチー、Guillain-Barré症候群(GBS)の慢性形態といった理解だったものが、サブタイプを有する免疫治療に反応する脱髄性ニューロパチーへと変わり、現在はバイオマーカーの候補が検索されています。SM、IL-8、NfLが候補ですが、未解明なことも多く今後の発展に期待します。Multifocal motor neuropathy(MMN)に対する新しい知見もありました。ご存知の通りMMNは抗GM1抗体と関連があり、補体活性化を介して軸索、Schwann細胞を破壊すると考えられています。Schwann細胞はGM2を含んだ様々なガングリオシドを発現していますが、MMNにおけるSchwann細胞の役割は不明です。これを解明するため、iPS細胞由来の運動ニューロンモデルを使用して、ガングリオシドに対するIgM抗体の役割を検討した発表でした。これによるとIgM型の抗GM2抗体陽性患者はMMNの早期発症と関連しており、MMNにおけるSchwann細胞との関わりが示されました。GBSの診断、治療ガイドラインに関するまとめでは、現在国内で使用されている2013年度版が次の改訂どのように変わるかを示唆するような内容でした。非定型例ではMRI、超音波検査が考慮されることが明記されるなど、画像検査が有効なパターンが固まってきた様子です。

 3日目も前日のハイライトから始まりCharcot-Marie-Tooth病(CMT)の話題が続きます。CMT1A複製とPMP22遺伝子の発見以来、CMTの遺伝学はヒトゲノムプロジェクトと次世代シーケンスの活用で常に進歩し続けています。現在、CMTやCMTに関連した神経障害の原因遺伝子は100以上が同定されています。しかし、コーディング変異のため遺伝的診断をうけていない家系が存在しており、この問題を解決する糸口に関する発表でした。GBSにおける抗ガングリオシド複合体抗体について、国際GBSアウトカム研究(IGOS)に登録された患者の臨床的特徴、臨床経過、転帰をまとめた結果も見ることができました。やはり抗ガングリオシド複合体抗体と個々の症例の経過には関連が認められ、GBSのvariantの診断にも有効とわかりました。夕方からはポスターセッションがあり、著者は実験的自己免疫性神経炎の動物モデルの炎症制御、神経再生マーカーに関する検討を発表しました。他のポスター発表はCMTや糖尿病性ニューロパチーをテーマとしたものが多く見受けられました。発表会場の雰囲気は穏やかで、気軽にディスカッションができました。

 4日目は基礎医学分野の発表で神経血管相互作用に関するものがありました。脱神経すると、当該部位の皮膚の修復、再生の遅れがみられることはすでに証明されています。神経や血管を含んだ皮膚を生成したスキンオンチップができあがれば皮膚病態生理学の解明に寄与できるといったものでした。夜は市街地まで出て、ロイヤルデンマークプレイハウスでclosing receptionが開かれました。

 全日程を通して、前日の内容のハイライトに始まり、flash presentationではテンポよく、かつ興味深い発表がいくつも行われ、活発な討論が交わされていました。基礎医学、臨床医学両面について幅広い知見を得られる学術大会は貴重であり大きな刺激となりました。今大会で提出されたabstractは388演題で世界各国から参加者が集いました。ポスターセッションではアルコール飲料を片手に軽食をとりつつ発表を聞くことができ、演者と気軽に議論を交わせるような雰囲気は国内ではなかなか目にすることはありません。日々の診療の中で時間を作ることは難しいとは承知しておりますが、皆様もぜひ一度参加してみてください。臨床、研究両面で大きな刺激を受けことができ、新たな視野が獲得できるかもしれません。
 来年(2024年)はカナダのMontréalで6月22日から25日まで、2025年は英国のEdinburghで5月17日から20日まで開催されます。是非、参加をご検討ください。

写真1 発表会場

写真1 発表会場

写真2 ニューハウン

写真2 ニューハウン

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