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神経治療最前線 海外学会参加報告

2017 PNS annual meeting

2017 Peripheral nerve society annual meeting

獨協医科大学 神経内科 舩越 慶
東邦大学医学部医学研究科 神経内科 萩原 渉

2017 Peripheral nerve society annual meeting
Sitges-Barcelona, Spain
2017年7月8日〜12日

7月8日〜7月12日に開催された2017 PNS (Peripheral nerve society) annual meetingに参加しました。前回までは2年に1度、ヨーロッパと北米で交互に開催されていましたが、Inflammatory neuropathy consortium(INC)が毎年開催されているのに併せて今後は毎年行われるとのことです。

今回はスペインBarcelona近郊のSitgesという地中海に面したリゾート地での開催で町は観光客で賑わっていました。開催前夜の会場となったホテルでは深夜1時過ぎまでpartyが行われておりDJも参加していてなかなか賑やかだったとのことです。

初日の午前中にINCの国際共同研究の現況について紹介がありました。国際GBS予後研究(IGOS)では2018年4月頃までには 1700-1800例の登録が見込まれるということでした。意外なことに南アフリカ、マレーシアなども登録施設があるようです。1300例以上が集まっていて、セルビアなどにも登録施設があるとのことでした。これから開始予定のIgM anti-MAG peripheral neuropathy(IMAGiNe)studyについては、10例以上の新規症例が見込まれる施設を募集していました。CIDPの治療のゴールについての発表では、IVIg、血漿交換、副腎皮質ステロイド以外に、少数例ですが皆様もご存知のようにシクロスポリン、シクロホスファマイド、アザチオプリン、インターフェロンβ1aなどで効果がみられたとの報告が紹介されていました。これらについては現況では多数例でのRCTは検討されていないようです。

午後は教育講演でした。免疫性ニューロパチーの臨床および電気生理所見のphenotype(POEMS症候群では、長さ依存性、遠位潜時は正常で中間部の伝導遅延が特徴であるなどとシンプルで分かりやすい説明でした)、シュワン細胞の前駆細胞から未熟細胞への分化の話や、Charcot-Marie-Tooth病遺伝子の次世代シークエンシングの解説などがありました。

2日目の朝7:30からはClinical trial updateと題された治療の最前線のトピックが紹介されていました。CMTは欧米では患者数が多いためか(人口比で日本の4倍)、ドイツのCMTのデータベースネットワーク構築(CMT1A患者の血液と皮膚から重症度と予後予測のマーカーを調べる)などが報告されていました。

3日目の朝は、CIDPの治験についていくつかの発表があり、新しい分子標的薬Rozanolixizumabの紹介や小児CIDPにおけるIVIgの安全性の検討、IVIgの異なる3用量での効果と安全性の検討などがありました。

GBSについてはご存知の通り、本邦で行われたギランバレー症候群に対するEculizumab療法の医師主導治験(第2相)であるJET GBS (Japanese Eculizumab Trial for GBS)が千葉大学桑原聡教授よりOral poster presentationと、後述するように最終日朝のClinical Trial Updateで報告され耳目を引きました。34例(うち当院は3例)の自力歩行不能な重症GBSが23例の実薬群と11例のプラセボ群に分けられ、実薬群は補体C5阻害薬のエクリズマブ(ヒトC5に対するモノクローナル抗体で夜間血色素尿症に保険適応あり)900mg/週1回で4週間投与されました。第一エンドポイントである投与開始4週後での歩行可能となった割合では実薬・プラセボ群で優位差は認めなかったが、第二エンドポイントで24週後に走ることが可能となった割合は実薬群74%, プラセボ17%で有意差を認めました。補体阻害薬は軸索障害を抑制することで、重症GBSに対して新規の有望な治療薬として認められることが期待されます。ただ問題点として販売元のAlexion社が第三相試験に積極的ではないこととのことでした。また同じく千葉大学三澤園子先生からPOEMS症候群におけるサリドマイド治療の有効性も報告されていました。筆者は慢性免疫性ニューロパチーでの抗ガングリオシド複合体抗体の検討をポスター発表しました。他に、CIDPにおける自己抗体の標的分子として注目されている、axo-glial interactionに関わる神経構成蛋白(Neurofascin155, Neurofascin186)に対する抗体に関連して臨床・基礎両方からの発表がありました。

4日目のclosing dinnerの前には会員総会があり、千葉大学の桑原聡教授が新たにPNSの理事に選出され、名古屋大学の小池春樹先生がJonathon Pembrook賞を、近畿大学の楠進教授がAlan J Gebhart賞を受賞されました。

5日目、朝のClinical Trial UpdatesのテーマはGBSでした。まず、前述のようにJET GBSについてのプレゼンテーションが行われましたが、すでに本学会中に何回か発表されてきているため聴衆の理解も進んでおり活発な討議が行われました。AIDP、AMANどちらのタイプにおいても効果的だったことが報告され、今後の発展が期待されます。この他には、GBSの髄液バイオマーカーとしての髄液補体成分 (C3、C2の増加)ついての検討、バングラデッシュでのGBSへのsmall volume plasma exchange (SVPE)の効果について、オランダでの Second IVIG dose in GBS patients with poor prognosis (SID-GBS)等が報告されました。GBSは、近年の医療の発展とともに、その生命予後は改善されているものの神経学的後遺症を来たす例も依然多く、生産年齢における罹患も多いことから社会的経済的に大きな影響を及ぼします。今回報告されたこれらの研究がさらに検討され、GBSに対するより良い治療法の開発につながることが期待されます。また末梢神経障害性疼痛に対する治療についての報告もありましたがpregabalinの効果を集計する程度であり少し期待外れの感がありました。

毎朝のClinical Trial Updateや神経科学に関するBasicな講演まで臨床と基礎に関して幅広い知見を得られる学術大会は国内では類をみません。学会のabstract数は今回447演題とのことで、これはどうやら過去最多のようです。日本からは20数名の参加者のようで、そのうちの一人が「臨床の傍らの準備は大変だけど非常にためになる経験が得られるので毎回楽しみだ」とおっしゃっていました。臨床・教育などご多用かとは思いますが、皆様もぜひ一度参加をしてみてください。きっと異なる環境で知的刺激を受けることができ、国際的な研究者と直に議論を交わすことで研究面でも有益な指針が得られるのかもしれません。

来年(2018年)は7月22日から米国Baltimoreで,2019年は6月22日からイタリアGenovaで開かれる予定です。

サグラダファミリア
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farewell party
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